5.壊れやすいこころを守ってあげましょう

ある小学五年生の子どもは、大変頭がよく成績も全国的に見ても素晴らしい子どもでした。しかし、時間があるときに読んでいる本は、列車の図鑑ばかりで、話の筋のある本はまったく読みませんでした。

ためしに、その子に「ノンタン」の絵本を見せたところ、少しずつ話しの筋がある本を読むようになってきました。すなわち、この子どもはようやく筋のある本を読んで理解するレベルになった、ということだと思います。

その子どもが、調子が悪くなった時期がありました。

毎日勉強をしていい成績をとることがその子の日常の全てでしたが、夏のお盆の時期、学習塾が休みになったのです。そうするとその子は、自分のやるべきことや目標、自尊心を証明するものが何もなくなり、イライラしてパニックになってしまいました。

その後、一時的に入院して環境を変え、なにもしないこと(窓から外をボーッと眺める時間)の大切さを学ぶ機会を与えた結果、こだわりが減り、落ち着きも出てきました。

毎日決められたこと、決めたことをしないことの重要性、そのことの意味を私たちにも考えさせてくれました。

自閉症の人の特徴は、言葉を話す場合、話すようになってからも自分の頭の中で、ある空想の世界を作り上げていくことです。

ある女の子は、ディズニーの世界が大好きで、白雪姫、眠れる森の美女、シンデレラなどを、洋服を着替えながら一時間ほど演じる遊びを繰り返しました。

家の中で布や絵を張り巡らし、母親に魔女の役柄とセリフを割り振りながら遊んでいました。彼女は4歳でしたが、「このままでは、本当に内にこもってしまうかもしれない」という不安を周囲に抱かせました。

そんなある日、そういった遊びをほとんどしなくなりました。

次にこの子は、人形型のミルク瓶だということを理解しているのに、まず自分でミルクを飲み、そのあとに人形にミルクをあげる、という行動をとりました。食べ物遊びのときも、ままごとのスイカなどを自分で舐めてしまいます。そのあと、私にも舐めろというわけです。

自分の世界だけで、空想の世界で生きている子どもです。外の世界、社会、すなわち人との関わりに不安としての問題があることがわかると思います。

現在、前述したようなファンタジーゲームはまったくしなくなりました。しかし、外の世界に対する不安からの引きこもり、食事に対する異常なこだわりは続いています。

私たちは、過敏性を持ちながら生きている、こわれやすいこころを、何とか守っていこうと考えています。

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