治療可能な認知症とは?

認知症と混同される疾患

治療可能な認知症で最も多い疾患は、うつ病、抑うつ状態です。うつ病・抑うつ状態になると、記憶力の低下や意欲の減退、集中力の低下などがみられ、一見すると認知症と似た病像がみられます。そのため、しばしば認知症と混同されて物忘れ外来を受診されることが多いのです。

次に多いのが、認知症を伴わない幻覚・妄想です。いないヒトがみえる、カーテンの横に誰かが立っている、ヒトの声が聞こえるなどの幻覚や、誰かに監視されている、いじめられているなどの妄想が主な症状になります。認知症とのちがいは、幻覚や妄想に起因する困った状態はみられますが、それ以外の日常生活ではまったく支障がないことです。認知症、とくにアルツハイマー病では、幻覚や妄想以外に洗濯機の使い方がわからない、同じものを何回も買ってくる、外出すると迷子になるなど、日常生活上で多方面に支障がみられることが特徴です。

甲状腺異能低下症・脳腫瘍・慢性硬膜下血腫

甲状腺機能低下症は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの低下によって生じるものです。活動性の低下や思考の緩慢化など認知症と類似した病像を示します。甲状腺機能低下症の診断は、採血で血液中の甲状腺ホルモンを測定すれば可能になります。

脳腫瘍も認知症と類似した病像を示しますが、CTスキャンやMRIといった脳の画像検査を施行すると、その診断は難しくありません。良性の脳腫瘍でも認知症と似た症状を示すことがあるので、認知症が疑われる方には必ず頭部CTスキャンあるいはMRI検査を施行することが必要です。

慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨と脳との間に出血が生じるものです。主として頭部の打撲後3週間から3ヶ月経ってから、なんとなくぼーっとしてきた、とんちんかんな話が多い、歩行がうまくできないなどの症状で気付かれることが多いです。慢性硬膜下血腫も、脳の画像検査を施行すれば容易に診断が可能になります。

認知症は治らないとあきらめるのではなく、適切な治療によって症状を治癒できる、あるいは軽減できる病気もあることを忘れないようにしたいものです。

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