5.医師と家族と周囲の人が協力することが大切

子どもは徐々に成長し、家族の一員となります。社会(友だち)とのつながりを深めながら、相手の存在を認めることができるようにもなるのです。

そして、相手の立場や気持ちを理解し、自分をコントロールして、集団生活のスキルを学び、学習するための基礎的な能力をつくり上げていきます。これが、就学までに子どもたちがとおらなければならない関門なわけです。

そうやって、社会の中で生きていく自分をつくり上げ、自我を育てながら、自分で考えて意志を決定し、責任を持つことができる大人にならなければなりません。

このことが、アスペルガー症候群の子どもたちにとって、知的には高くてももっとも困難なことなのです。理屈で理解し、考えようとするためにつまずき、こころも傷ついていきます。

子どもには、一歳半ぐらいに愛着の確認行動が起こってきます。すなわち、一度離れることができた子どもが、再び母親へくっつくようになり、甘えるようになってくるのです。

このときに母親が、ちょっと甘えを許してあげればいいのですが、その余裕が持てないことがあります。子どもが多動であったり、攻撃性が強かったり、夫が子育てに協力や理解をしてくれなかったり、次の子どもが生まれたなどが理由にあげられます。

まして、子どもに発達障害があったり、父親に同様の状態があったりしたら、母親がうつ状態になってしまいます。疲れて余裕のなくなった場合には、虐待に発展することもあるのです。

このように多動や攻撃性が強い場合には、家庭内暴力が隠れていることも多いので、家庭環境を考慮したうえでの注意深い聞き取りが大切となります。

ただし、家庭機能の問題を明らかにしていく場合には、治療しなければいけないわけですが、家庭機能お再構築を行うという覚悟も、医療側には必要です。

三歳ごろになると、自分の足でどこへでも出かけていくことができ、言葉で自分の意志を伝えることができるようになります。すなわち、自立です。

四歳になると、自我を抑えることができ、集団の中で自分がどのように振る舞えばよいのかが、ある程度分かるようになります。三歳レベルでは自分勝手であることは当たり前なので、三歳の子どもに対して社会性の有無を判断するのは、少し厳しいのではないかと思います。

自閉症で落ち着きのにあ子どもの母親で、「私はこの子を見ているとイライラして、一緒に死にたくなってしまう。この子どもを見ているとうつ状態になる。私自身も病院にかかりたい」と仰る人がいます。こういう人には、具体的なサポートを細かく段階ごとに、リハビリ、心理、地域などで行い、子どもをみんなで見ていくという耐性をつくっていかなければなりません。

「アスペルガー症候群」という診断をつけることは、医師と家庭と周囲の人達が、具体的な対応を一緒に考えて実践することが必要条件であると考えてください。
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