14.もっとも理解できないのが「死ぬこと」

アスペルガー症候群の人にとって、「死」ということはもっともわからない言葉だと思います。

実体験で説明できる人がいませんし、彼らにとってはファンタジー的な世界かもしれません。

今の世界はすごくつらい世界であり、住みにくく、生きにくい世界だとすれば、他の世界(ファンタジーの死の世界)に、簡単に逃げ込んでしまうかもしれません。

あるアスペルガー症候群の子どもは、ひどいいじめにあっていました。学校にいくのがとてもつらくなり、他の世界に逃げたくなってしまったのでしょう。ある日、二回から飛び降りてしまいました。足を折っただけで済みましたが、その時の様子がとても変わっていました。

しばらく前から、母親に、「とても辛いから死にたい」と言ってはいたのですが、誰も本気にしていませんでした。あるとき、急に靴を脱いで、傘を広げて二回から飛び降りたのだそうです。

辛すぎて、ちょっと「メリー・ポピンズの世界」にいってこようか、という感じでしょうか。

あるいは、人間が「死後の世界」を知る以前の状態を生きていたのでしょうか。

アスペルガー症候群の子どもは、生きた後にくる「死」の存在を意識出来ないのかもしれません。

そういう子どもたちに、私たちは「死んではいけない」という気持ちをどうあっても伝えなければならないのです。

「君が死んだとき、悲しむ人がいる」しかし、「悲しみ」という感情が理解できず、実感の持てない人にとって、死ぬことはなんと簡単なことでしょう。

例え、どれほどの才能があったとしても、社会性の面で障害があるアスペルガー症候群の人にとって、「社会での生きにくさ」は次から次へと押し寄せてくるでしょう。

しかし、ひとつだけ、かろうじてこれを回避出来そうな方法があります。

アスペルガー症候群の人たちは、ときに字義通りの解釈をします。子どもであるならば、過去に行った母親との「約束」は、一生守ろうとするのです。

つまり、「いろいろなことがあるけれど、いつも同じではない」「人は複雑だから、という考えを持つこと」「死に対するこだわりを、ほかのこだわりに変えることも有効」というようなことを教え、そして、黙って寄り添ってあげることが大切なのではないでしょうか。

間違っても彼らには、「お前なんか、死んでしまえ」と断じて言ってはなりません。

アスペルガー症候群の人は、それが冗談であることも理解しない場合があるのです。

「今、君の考えている重大なことは、もっと別の楽な生き方に変えてみよう。生きることと死ぬことを考える前に!」とメッセージを発し続けることが重要なのです。