知的に高いアスペルガー症候群の子どもは文書を読むことができ、すべての科目が優れています。しかし、唯一不得意な科目は国語の読解です。
こんな問題がよくあります。
「この作者は、何がいいたいか?」
こうした質問が、どうしてもわからないというのです。
この質問は、作者のこころのうちがわからなければ答えられませんし、その答えは文中に文章として出ていないことが多いものです。「行間が読めない」と答えられませんし、全体の「輪郭」がわからなければ導き出せないこともあります。
また、文章で、「ぼくは・・・」と書いてある場合、当たり前ですが、「ぼく」は文章の作者であって読んでいる人ではありません。ということは、「ぼく」と表現する人は自分以外にもいるということです。簡単なことだと思うかもしれませんが、このことを説明することの難しさ、それを理解するのが難しい人がいることも考えてあげなくてはいけません。
このことを説明するのが、「心の理論」です。簡単に言うと、相手の立場になって考えるということ。非言語性機能と言語性機能の発達がバランスよく行われたときに成立すると考えられています。
「心の理論」には、「サリーとアンの課題」と、「スマーティーの課題」が代表的です。
サリーとアンの課題・心の理論第一段階
サリーとアンの二人がいます。
サリーは自分のバスケットの中にボールを入れました。そして、どこかへ遊びに出かけました。そこへアンがやってきて、そのボールを自分のバスケットの中に入れてしまいます。そのあと、サリーが帰ってきたとき、どちらのバスケットを見るでしょうか?という課題です。
もちろん、正しい答えは自分(サリー)のバスケットです。しかし、この答えはサリーの立場に立って考えないとわからないことです。客観的に舞台を見ている観客の立場から、サリー自身になって考えることが必要になるのです。
この課題は、早い子どもでは3歳ぐらい、通常4〜5歳、遅くとも6歳までには理解できるようになります。
逆に言うと、こういうことがきちんとわかっていないお子さんに、「あなたがそういうことをすると、あの子は、どんなにつらい思いをしてるかわかる?どれほど悲しいか、わかっているの?」といっても相手の立場に立って考える視点のない子にわかるわけがないのです。
スマーティーの課題・心の理論第二段階
スマーティーは、ネスレという会社から発売されている海外版のマーブルチョコレートのようなお菓子です。
アメリカの子どもたちは、この箱を見ると、「箱のなかにチョコレートが入っている」とすぐわかります。
この課題では、中に赤えんぴつが入れてあります。この箱を渡すと子どもは喜んで、チョコレートをもらったと思って箱を開け、チョコレートが入っていないのでびっくりしてしまいます。
次に、この箱を、この場所にいない人、例えば、「お父さんに渡してごらん、お父さんは中に何が入っていると思うかな?」と聞きます。
もちろん、外側からだけ見るとチョコレートのパッケージですから「チョコレートが入っている」というのが正しい答えです。
アスペルガー症候群の子どもは、お父さんの気持ちになって考えられないため、何が入っているかわからなかったり、「中は赤鉛筆」と答えてしまったりするでしょう。
このような課題ができないことは、同じ場所にいない相手の立場になって考え、相手の心を読むことができないということになります。
健常のお子さんは「サリーとアンの課題」は四歳頃で通過し、その一年後ぐらいで「スマーティーの課題」を通過するといわれています。
これらの課題は、かなり聴覚や視覚的な記憶が必要になります。ただスマーティーの課題は二画面しかありませんから、アスペルガー症候群の人で、資格記憶が大変よい人は、「サリーとアンの課題」ができなくても、こちらは出来てしまう人もいます。
すなわち、視覚的な記憶が優位で、聴覚的な記憶が悪いと、こういう理屈に合わないことも起こってくるのです。
アスペルガー症候群の人は、「サリーとアンの課題」を6〜8歳、高機能自閉症の人は、大体10歳ぐらいで通るといわれていますが、知的レベルは年齢層等であるので、高機能広汎性発達障害の人は、「心の理論」の発達の問題が本態であるということもいわれています。