【診断基準】「全身の激しい痛み」は線維筋痛症?セルフチェックと受診すべき専門医リスト

線維筋痛症(せんいきんつうしょう, Fibromyalgia: FM)は、レントゲンや血液検査などの一般的な検査では異常が見つからないにもかかわらず、全身の広範な部位に慢性的な痛みやこわばり、強い疲労感が続く原因不明の病気です。その診断は難しく、多くの患者さんが「気のせい」「精神的なもの」と誤解され、診断確定までに時間を要することが少なくありません。早期に適切な治療を開始するためには、この病気の特徴的な症状を理解し、専門医に繋げることが重要です。

線維筋痛症の主な症状と診断基準

線維筋痛症の症状は「痛み」だけでなく、睡眠障害や倦怠感など多岐にわたります。現在、主にアメリカリウマチ学会(ACR)の分類基準が診断の目安として用いられています。

1. 特徴的な「全身の痛み」の広がり(広範囲疼痛)

診断に最も重要なのは、痛みが特定の部位に限定されず、広範囲にわたっていることです。以下のすべての条件を満たす必要があります。

  • 体幹の痛み: 首、胸、背中、腹部のうち、少なくとも1ヶ所に痛みがあること。

  • 体の左右両側に痛みがあること。

  • 上半身と下半身の両方に痛みがあること。

この痛みが3ヶ月以上持続していることが、線維筋痛症の大きな条件となります。痛みは「ズキズキする」「締め付けられる」「焼けるような」など多様な表現で訴えられます。

2. 圧痛点(圧迫による痛み)

以前は、全身の特定の18カ所のポイントのうち、11カ所以上を押したときに強い痛みを感じるかどうかが重要な診断基準でした。現在ではより包括的な基準が用いられていますが、これらの圧痛点(特に首の後ろ、肩、腰、膝の内側など)に強い痛みがあることは依然として重要なサインです。

3. 付随するその他の症状(共通症状)

痛み以外にも、以下の付随症状が生活に大きな支障をきたします。

  • 疲労・倦怠感: 何をしても取れない、鉛のように重い全身の疲労感。

  • 睡眠障害: 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝起きたときの熟睡感がない。

  • 認知機能障害(ファイブロ・フォグ): 集中力や記憶力の低下、思考がぼやけるような感覚。

  • うつ・不安: 慢性的な痛みによる二次的な抑うつ状態や不安感。

  • 自律神経系の症状: 頭痛、過敏性腸症候群(IBS)、手足のしびれ、冷え、頻尿など。

線維筋痛症のセルフチェックリスト

以下の項目で当てはまるものが多い場合、専門医への相談を検討してください。

  1. 全身のあちこちが痛く、その痛みが3ヶ月以上続いている。

  2. 体の左右両側、上下半身、そして体幹(胴体)にも痛みがある。

  3. 寝ても寝ても疲れが取れず、全身が常にだるい。

  4. 集中力が続かず、物忘れが多くなったと感じる。

  5. 睡眠の質が非常に悪く、不眠や途中の目覚めに悩んでいる。

  6. 痛みや疲労感のために、仕事や家事、外出が困難になってきた。

  7. 一般的な鎮痛剤や湿布薬がほとんど効かない。

  8. 病院で検査を受けても、「特に異常はない」と言われることが多い。

病院へ行くべき判断基準と専門医リスト

原因不明の全身の痛みは、まず内科や整形外科を受診しがちですが、線維筋痛症は専門的な知識が必要です。

病院へ行くべき判断基準

  • 全身の広範囲の痛みが3ヶ月以上持続し、一般的な治療(湿布、市販薬)で全く改善しないとき。

  • 痛みのために日常生活(仕事、家事、睡眠)に深刻な支障が出ているとき。

  • 複数の医療機関で検査を受けても、痛みの原因が特定できていないとき。

受診すべき専門医リスト

線維筋痛症の診断と治療は、多岐にわたる症状に対応できる専門性の高い診療科が望ましいとされています。

  1. リウマチ科(膠原病内科):

    • 線維筋痛症は関節炎などの膠原病と鑑別が必要であり、リウマチ専門医は慢性疼痛の治療経験も豊富です。最初に受診する科として推奨されることが多いです。

  2. 疼痛専門外来(ペインクリニック):

    • 痛みのメカニズムに特化した治療(神経ブロック、薬物療法など)を提供しており、線維筋痛症の痛み管理において中心的な役割を果たします。

  3. 心療内科・精神科:

    • うつや不安、睡眠障害といった付随症状が強い場合、精神的なケアと薬物療法を並行して行うために専門医の協力が必要です。

特に、日本線維筋痛症学会のホームページに掲載されている専門医リストを参照し、線維筋痛症の診療経験がある医師や医療機関を探すことが、適切な診断への最も確実な近道となります。早期の確定診断と、痛みの軽減、睡眠の質の改善、付随症状への多角的なアプローチを行うことで、症状の安定とQOLの向上が期待できます。