動作が遅くなる、手が震える…パーキンソン病の基礎知識:原因、症状、診断、そして治療の進歩

はじめに:高齢化に伴い増加する神経難病「パーキンソン病」

パーキンソン病は、脳の病気の一つで、身体の動き、つまり運動機能に障害が現れる神経変性疾患です。日本における特定疾患(難病)に指定されており、高齢化に伴い患者数は増加傾向にあります。

この病気の症状は、手足の震えや動作の遅さなど、日常生活に大きな影響を及ぼしますが、初期には単なる「年のせい」や「疲れ」と見過ごされてしまうことも少なくありません。

しかし、パーキンソン病は、治療法が確立されており、早期に診断を受け、適切な治療を継続することで、長期間にわたり日常生活の質を維持できる病気です。

この記事では、パーキンソン病がなぜ起こるのか、どのような症状で進行するのか、そして現在の診断と治療の進歩について、分かりやすく解説します。

1. パーキンソン病の正体:脳内のドーパミン不足

パーキンソン病の直接的な原因は、脳内の特定の神経細胞が減少し、神経伝達物質であるドーパミンが不足することです。

ドーパミンの役割

私たちの脳には、黒質という部位があり、ここで運動の指令を円滑に伝える役割を担うドーパミンが作られています。ドーパミンは、体を動かす際に指令のスイッチをスムーズに入れる潤滑油のような役割を果たします。

病気のメカニズム

パーキンソン病では、この黒質の神経細胞が徐々に減少し、脳内のドーパミン量が不足してしまいます。その結果、運動の指令がスムーズに伝わらなくなり、特徴的な動作の障害(運動症状)が現れるのです。

なぜ黒質の神経細胞が減少するのか、その根本的な原因はいまだ解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因が複雑に関わっていると考えられています。

2. パーキンソン病の4大運動症状

パーキンソン病と診断されるために重要な4つの運動症状があります。

A. 振戦(手足の震え)

安静時振戦と呼ばれる、手足が何もしていない安静時に震えるのが特徴です。特に片側の手や指先に現れることが多く、何か動作を始めようとすると震えが止まるか、軽減します。

B. 筋強剛(筋肉のこわばり)

手足や体幹の筋肉が硬くなり、関節の動きが悪くなります。他動的に関節を曲げ伸ばしすると、歯車を回すときのようなカクカクとした抵抗を感じることがあり、歯車現象と呼ばれます。

C. 無動・寡動(動作の遅さや少なさ)

動作を始めたり、続けたりすることが難しくなる症状です。

  • 動作の緩慢さ:歩き始めや、服を着るなどの動作に時間がかかります。
  • 小刻み歩行:歩幅が小さくなり、すり足で歩くようになります。
  • 仮面様顔貌:表情筋の動きが少なくなり、無表情に見えます。

D. 姿勢反射障害(バランスの障害)

体のバランスを保つ反射機能が障害されるため、姿勢が不安定になり、転倒しやすくなります。病気の比較的進行した段階で現れることが多い症状です。

3. 見過ごされやすい非運動症状の存在

パーキンソン病は、運動症状が注目されがちですが、実際には運動症状が現れる数年前から、あるいは病気の進行とともに、非運動症状も現れます。これらの症状は生活の質を大きく低下させるため、早期の対処が重要です。

  • 嗅覚障害:においが分かりにくくなります。
  • 便秘:非常に多くの患者に見られる症状で、早期から現れます。
  • 睡眠障害:夜間に大きな声で寝言を言う、手足を激しく動かす(レム睡眠行動障害)。
  • 自律神経症状:立ちくらみ(起立性低血圧)、発汗異常。
  • 精神症状:うつ病、不安、意欲の低下。

4. パーキンソン病の診断と治療の基本

診断方法

パーキンソン病の診断は、専門の神経内科医による問診と神経学的診察が中心となります。

  1. 診察:4大運動症状の有無、現れ方、進行速度などを確認します。
  2. 画像検査:MRIなどで脳の他の病気(脳腫瘍、脳血管障害など)を除外します。
  3. DATスキャン(ドパミントランスポーターシンチグラフィー):ドーパミンの取り込み能力を画像で可視化する検査で、パーキンソン病の診断を補助します。

治療の基本原則:薬物療法が中心

現在、パーキンソン病を完全に治癒させる治療法はありませんが、不足しているドーパミンを補充し、症状をコントロールする薬物療法が非常に進歩しています。

  • L-DOPA(レボドパ)製剤:脳内でドーパミンに変換される薬で、最も効果が高く、中心的な治療薬です。
  • ドーパミンアゴニスト:ドーパミン受容体を直接刺激し、ドーパミンと同じ働きをします。L-DOPAの作用時間を補完する役割もあります。
  • その他の薬:ドーパミンの分解を抑える薬(MAO-B阻害薬など)や、症状に合わせて他の神経伝達物質に作用する薬を組み合わせます。

薬物療法以外の治療

  1. リハビリテーション:運動機能を維持し、動作能力やバランス感覚を保つために、薬物療法と並行して継続的に行います。
  2. 脳深部刺激療法(DBS):薬物療法ではコントロールが難しい振戦や運動合併症がある場合、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激で症状を改善する手術治療です。

まとめ:諦めずに専門医とともに歩む

パーキンソン病は、進行性の病気ですが、現在の医療技術をもってすれば、多くの方が長年にわたって社会生活や日常生活を維持することが可能です。

パーキンソン病の要点 説明
病気の原因 脳内のドーパミン不足。
主な症状 震え、動作の遅さ、筋肉のこわばり、バランスの不安定さ。
治療の中心 L-DOPA製剤を中心とした薬物療法。
取るべき行動 神経内科専門医による早期診断と継続的な治療・リハビリ。

もしご自身やご家族に「手が震える」「動きが遅くなった」といった気になる症状があれば、「年のせい」と片付けずに、神経内科の専門医にご相談ください。専門医とともに病気を理解し、適切な治療を受けることが、前向きな生活を送るための鍵となります。

本記事は情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。診断や治療については、必ず神経内科の専門医を受診し、医師の指示に従ってください。