1. パーキンソン病は「治る」のか?
結論から言えば、現在の医療ではパーキンソン病を完全に「治す」(根治する)ことはできません。
パーキンソン病は、脳内でドーパミンを作り出す神経細胞が徐々に失われることで発症する進行性の神経変性疾患です。一度失われた神経細胞を元に戻すことはまだできませんが、治療薬の進歩により、症状を強力に抑え、病気の進行を遅らせることや、発症前とほぼ変わらない日常生活を送ることは十分可能です。
治療の目的は、日常生活の質(QOL)を高く維持し、進行を遅らせることです。
2. 進行度別:パーキンソン病の主要な治療薬
パーキンソン病の治療は、不足しているドーパミンの働きを補うことを基本とし、病気の進行度や患者さんの症状に合わせて薬が調整されます。
| 治療薬の種類 | 作用メカニズム | 主な使用タイミングと特徴 |
| ① L-ドーパ薬 | 脳内でドーパミンに変換され、不足しているドーパミンを直接補充する。 | 中心的な治療薬。最も効果が高い。病気が進行し、症状が顕著になってきた段階から使用されることが多い。 |
| ② ドーパミンアゴニスト | ドーパミンの代わりに受容体を刺激し、ドーパミンが働いているかのように作用させる。 | L-ドーパ薬より効果は緩やか。初期〜中期の患者に使用され、L-ドーパ薬の使用開始を遅らせる目的もある。 |
| ③ MAO-B阻害薬 | ドーパミンを分解する酵素の働きを抑え、脳内のドーパミン濃度を保つ。 | 初期から使用され、L-ドーパ薬の効果を高めたり、使用量を減らしたりする目的で使用される。 |
| ④ その他 | COMT阻害薬(L-ドーパ薬の効果延長)、アマンタジン(振戦・動作緩慢の改善)など。 | 他の薬の効果を補強するために併用される。 |
薬物療法の特徴
病気が進行すると、薬が効いている時間(On Time)と効かなくなっている時間(Off Time)の差が大きくなる「ウェアリング・オフ現象」が現れることがあります。この現象が起きた場合は、薬の種類や服用回数を細かく調整する必要があります。
3. 日常生活を取り戻す鍵:「薬」と「リハビリ」の両立
パーキンソン病の治療は、薬物療法だけで完結しません。リハビリテーションを組み合わせることで、薬の効果を最大限に引き出し、QOLを維持することが可能です。
薬の役割:動作の質を向上させる
薬は、ドーパミン不足を補い、「震え」や「こわばり」といった運動症状を改善し、動作を行いやすい状態(Onの状態)を作ります。
リハビリの役割:動作を再学習させる
リハビリは、「体が動くようになった状態(Onの状態)で、正しい動作を意識的に体に覚えさせる」ことです。
- 運動療法:動作の緩慢さを改善するため、大きく腕を振り、大股で歩く練習など、意識的に普段よりオーバーな動作を反復する。
- 言語聴覚療法:声が小さくなる(構音障害)のを防ぐため、腹式呼吸や大きな声で話す練習を行う。
- 作業療法:日常生活に必要な動作(着替え、食事など)をスムーズに行うための工夫や練習を行う。
薬の効果が出ている時間帯を狙ってリハビリを行うことが、動作の再学習に最も効果的です。専門の神経内科医とリハビリテーション専門職と連携し、治療を進めていくことが重要です。
