停留精巣は、出生男児の約1〜3%に見られる一般的な先天性異常の一つで、放置すると将来の生殖能力やがんリスクに影響を及ぼす可能性があります。本記事では、停留精巣の原因、症状、診断、治療方法、そして手術の適切なタイミングについて、医療的な視点からわかりやすく解説します。
停留精巣とは?その定義と発症メカニズム
停留精巣(ちんりゅうせいそう)とは、本来陰嚢(いんのう)に下降するはずの精巣が、腹腔内や鼠径部などで止まってしまい、陰嚢に存在しない状態を指します。
胎児期の精巣は腹腔内にありますが、通常は妊娠7ヶ月〜8ヶ月頃に陰嚢へと自然に下降します。この過程が妨げられることで停留精巣が発生します。
発症部位による分類
分類 | 位置 | 特徴 |
---|---|---|
腹腔内停留 | お腹の中 | 触診では確認できず、画像検査が必要 |
鼠径部停留 | 鼠径管内 | しばしば触知可能 |
高位陰嚢内 | 陰嚢の上部 | 一見陰嚢内にあるようで不完全な下降 |
停留精巣の主な原因とは?
原因は一つに限定されず、複合的な要因が関与しています。
- ホルモン異常:精巣の下降は性ホルモン(特にアンドロゲン)に依存しています。
- 解剖学的問題:精索が短かったり、陰嚢への導線である導帯が異常な位置にある。
- 遺伝的要因:一部の症例では家族歴があることも。
- 早産:胎児の発育が不完全なため、精巣が下降しきらないケース。
どんな症状がある?親が気づくポイント
停留精巣は無症状であることが多く、新生児期の健診や乳児健診で初めて発見されることが一般的です。以下の点に注意しましょう:
- 陰嚢が片方(または両方)へこんでいる
- 陰嚢に触れても精巣が確認できない
- 泣いたり温浴後に精巣が陰嚢に出てくる場合は移動精巣の可能性も
停留精巣の診断と検査方法
診断には以下の方法が用いられます:
- 視診・触診:基本的な診察で精巣の位置を確認
- 超音波検査:触診で確認できない場合の画像検査
- MRIやCT:腹腔内停留が疑われる場合に追加検査
- 腹腔鏡検査:確定診断と同時に治療も可能
治療方法は?自然に治るの?
多くの場合、生後6ヶ月までに自然に精巣が下降することがありますが、それ以降は外科的治療が必要です。
治療法 | 対象 | 内容 |
---|---|---|
経過観察 | 生後6ヶ月未満 | 自然下降の可能性を期待して定期診察 |
ホルモン療法 | 軽度の停留精巣 | hCG注射などで下降を促すが成功率は限定的 |
手術(精巣固定術) | 生後6ヶ月〜1歳以降 | 陰嚢内に精巣を固定する外科手術 |
手術のタイミングと術後の注意点
最適な手術時期は生後6ヶ月〜1歳の間とされ、遅くとも2歳までに行うことが推奨されています。
術後の注意点:
- 1週間程度の安静が必要
- 術後は陰嚢の腫れや軽い痛みを伴うことがある
- 定期的なフォローアップで精巣の成長を確認
停留精巣が引き起こす可能性のあるリスク
未治療の停留精巣は、以下のようなリスクが高まります。
- 精子形成不全:高温環境では精子が正常に形成されません。
- 精巣腫瘍:特に腹腔内停留は精巣がんのリスクが上昇します。
- 精巣捻転:精巣が固定されていないことで捻じれる可能性。
Q&A:よくある質問に答えます
Q1. 停留精巣は自然に治りますか?
A. 生後6ヶ月までに自然に下降することもありますが、それ以降は手術が必要です。
Q2. 大人になってから気づいた場合の対応は?
A. 成人でも発見された場合は、がんのリスクがあるため精巣摘出術が検討されます。
Q3. 両側とも停留していると不妊になりますか?
A. 両側の場合、未治療であれば高確率で精子形成が障害されます。ただし、早期治療により改善が見込めます。
まとめ:早期発見・早期治療が鍵
停留精巣は決して珍しい疾患ではありませんが、適切な時期に治療しなければ将来的な健康リスクを抱える可能性があります。特に乳児健診で異常が見つかった場合は、専門医の診察を早めに受け、必要に応じて手術を検討することが大切です。
子どもの将来の健康を守るためにも、保護者が正しい知識を持つことが何よりも重要です。