冠攣縮性狭心症とは?夜間・安静時の胸の痛みの原因と治療薬

1. 冠攣縮性狭心症とは?

冠攣縮性狭心症は、心臓の表面を走る冠動脈が一時的に痙攣(けいれん)して異常に収縮し、血流が途絶えることで心筋が酸素不足に陥り、胸痛発作を起こす病気です。

一般的な狭心症(労作性狭心症)が動脈硬化による血管の狭窄(狭くなること)が主な原因であるのに対し、冠攣縮性狭心症は血管が一時的に「つまる」ことが特徴です。

2. 夜間・安静時に痛みが出るメカニズム

このタイプの狭心症の最大の特徴は、運動時ではなく、安静にしている時や夜間・早朝に発作が起こりやすいことです。

特徴 メカニズム
夜間・早朝の発作 副交感神経が優位になり、血管が収縮しやすい状態になること、または体温の変化や脱水などが関連していると考えられています。
安静時の発作 運動による酸素需要の増加ではなく、血管自体の異常な収縮(攣縮)が原因であるため、安静時にも発作が起こります。
アルコール 飲酒後の深夜や明け方に発作が起こりやすいことが知られています。アルコール代謝物や、飲酒後の自律神経の乱れが攣縮を誘発するためです。
喫煙 喫煙は血管内皮機能を障害し、血管の過収縮を引き起こすため、最大の危険因子とされています。

3. 治療の中心:発作を防ぐ「カルシウム拮抗薬」

冠攣縮性狭心症の治療は、発作を予防するために血管の痙攣を防ぐ薬を継続的に服用することが中心となります。

① カルシウム拮抗薬

  • 役割: 冠動脈の平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入を妨げ、血管の収縮(攣縮)を強力に抑制し、広げた状態に保ちます。これが第一選択薬です。
  • 主な薬剤: ニフェジピン、ジルチアゼム、アムロジピンなど。
  • 特徴: 発作を予防するため、症状がない時でも毎日定時に服用する必要があります。

② ニトログリセリン製剤

  • 役割: 血管を拡張させる作用があり、発作が起きた際に舌下錠やスプレーとして使用します。
  • 使用目的: 救急薬として、発作時の迅速な症状緩和のために使われます。

注意事項

労作性狭心症の治療で使われるβ遮断薬は、冠攣縮性狭心症の患者さんに使用すると、かえって攣縮を誘発し症状を悪化させるリスクがあるため、原則として避けるべきとされています。

4. 予防と生活習慣の改善

薬物療法と並行して、発作の誘発因子を避けるための生活習慣の改善が非常に重要です。

  • 完全禁煙:血管内皮機能の改善と発作予防のため、生涯禁煙は絶対条件です。
  • 飲酒の制限:アルコールは誘発因子となるため、飲酒量を制限するか、発作が多い場合は禁酒を徹底します。
  • 冷えの回避:寒い場所での急な温度変化は血管を収縮させるため、防寒対策を徹底します。

冠攣縮性狭心症は、適切な診断と治療、そして生活習慣の見直しによって、発作をコントロールし、心筋梗塞への移行リスクを大幅に下げることが可能です。