前立腺肥大症(BPH)の治療は、症状が重度でない限り、まず薬物療法(飲み薬)から開始されます。薬物療法は、肥大した前立腺による「尿道の圧迫」と「膀胱の過敏」という二つの問題を解消することを目指します。
1. 薬物療法の主要な薬剤と作用
前立腺肥大症の薬物療法は、大きく分けて「緩める薬」と「小さくする薬」の2種類が中心となります。
① 緩める薬:α1遮断薬(アルファワンしゃだんやく)
| 薬剤名(系統) | 主な作用 | 効果が出るまでの期間 |
| α1遮断薬(タムスロシン、シロドシンなど) | 前立腺と尿道の筋肉を緩め、尿道の圧迫をすぐに緩和し、尿の勢いを改善する。 | 数日〜2週間で効果が出始める。 |
| 副作用 | 射精障害(精液が膀胱側へ逆流する)、めまい・立ちくらみ(起立性低血圧)。特にシロドシンは射精障害が多い。 |
② 小さくする薬:5α還元酵素阻害薬(5-ARI)
| 薬剤名(系統) | 主な作用 | 効果が出るまでの期間 |
| 5-ARI(フィナステリド、デュタステリド) | 男性ホルモンの働きを抑え、肥大した前立腺自体を小さくする。 | 6ヶ月〜1年かけて前立腺を縮小させるため、効果が出るまでに時間がかかる。 |
| 副作用 | 性機能低下(性欲減退、勃起障害)、肝機能障害。また、PSA値(前立腺がんの腫瘍マーカー)を約半分に低下させるため、検診時の注意が必要。 |
③ 補助的な薬:その他の薬剤
- PDE5阻害薬(タダラフィルなど):低用量で使用され、血管を広げ、前立腺や膀胱の血流を改善することで症状を緩和する。
- 抗コリン薬・β3作動薬:頻尿や尿意切迫感などの膀胱の過敏な症状(蓄尿症状)が強い場合に併用される。
2. 副作用の比較と注意点
特に注意すべき副作用と、それに対する対処法を理解しておく必要があります。
| 副作用 | 主な薬剤 | 対処法 |
| 射精障害 | α1遮断薬(特にシロドシン) | 薬の作用によるもので、中止すれば元に戻る。気になる場合は他の薬剤への変更を相談。 |
| めまい・立ちくらみ | α1遮断薬全般 | 服用初期に起こりやすい。座ってから立ち上がるなど、ゆっくり動くことを心がける。 |
| 性機能低下 | 5-ARI | 服用中に起こる可能性がある。専門医と相談し、薬の変更や休薬を検討する。 |
| PSA値の低下 | 5-ARI | 前立腺がん検診を受ける際は、必ず医師に5-ARIを服用中であることを申告する。 |
服用時の重要事項
5-ARI(フィナステリド、デュタステリド)は、女性や小児が触れると皮膚から吸収され、胎児に影響を及ぼす危険性があるため、妊婦や妊娠の可能性のある女性は取り扱いに注意が必要です。
3. 服薬をやめるタイミングと注意点
前立腺肥大症は進行性の疾患であり、症状の原因となる前立腺の肥大や膀胱の変化は、薬で進行を遅らせることはできても、完治するわけではありません。
原則:自己判断での中断はNG
- BPHの薬は、服用している期間だけ症状を抑える対症療法が基本です。
- 症状が改善したからといって自己判断で服薬を中断すると、多くの場合、数ヶ月以内に症状が再発します。
服薬の中止・減薬が検討されるケース
- 症状が完全に落ち着いた:特に5-ARI(小さくする薬)を服用し、前立腺が十分に縮小した場合、医師の指示で減薬や中止が検討されることがあります。
- 副作用が生活に大きな支障をきたす:副作用が耐え難い場合は、薬の種類を変更したり、手術療法(TURPなど)に切り替えたりすることが検討されます。
服薬の中断や変更は、必ず泌尿器科専門医の判断のもとで行ってください。

