特発性正常圧水頭症

特発性正常圧水頭症(iNPH)は、高齢者に多く見られる原因不明の脳疾患で、歩行障害や認知機能の低下、尿失禁などの症状を引き起こします。進行性でありながらも、早期発見と適切な治療により改善が見込める数少ない疾患の一つです。本記事では、特発性正常圧水頭症の特徴から診断・治療法、予後まで詳しく解説します。

特発性正常圧水頭症とは?

特発性正常圧水頭症(Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus:iNPH)は、脳室に脳脊髄液が過剰にたまり、脳を圧迫することで様々な神経症状を引き起こす病気です。「正常圧」とは、脳圧が通常範囲であるにもかかわらず水頭症が進行する点が特徴です。

項目 内容
病名 特発性正常圧水頭症(iNPH)
対象年齢 主に60歳以上の高齢者
原因 不明(特発性)
治療法 シャント手術

主な症状とその特徴

iNPHは3大症状が非常に特徴的です。これらの症状はゆっくりと進行することが多く、加齢や認知症と誤認されがちです。

  • 歩行障害:小刻みな歩行、足が前に出にくい「すり足歩行」が特徴。
  • 認知障害:記憶力の低下よりも注意力・判断力の低下が目立つ。
  • 尿失禁:急な尿意や失禁が生じる。

初期症状としては「歩き方が変」と気づくことが多く、家族や介護者が早期に変化を認識することが重要です。

診断方法

特発性正常圧水頭症の診断には以下のようなステップがあります。

  1. 問診・身体検査:症状の有無と進行の具合を確認。
  2. 画像診断(MRI・CT):脳室の拡大を確認。
  3. 脳脊髄液タップテスト:腰椎穿刺で液を抜いて症状が改善するかを見る。

特にタップテストでの改善が見られれば、シャント手術の効果が期待できるとされます。

治療法とその効果

iNPHの標準的な治療法は「シャント手術」です。これは、脳内にたまった脳脊髄液を体外へ排出する管(シャント)を挿入する手術です。

主なシャントの種類

シャント名 流出先 特徴
VPシャント 腹腔(おなか) 最も一般的。体への負担が比較的少ない。
VAシャント 心臓の静脈 高齢者にはあまり使われない。

術後、歩行の改善が最も顕著で、認知機能や排尿障害も時間をかけて改善するケースがあります。

予後と生活への影響

手術後の経過は個人差がありますが、早期に治療を行えば、約60〜80%の患者で症状の改善が見込めます。特に歩行障害に関しては、劇的な改善が報告されていることもあります。

一方、シャントの機能不全や感染など、術後に注意すべき合併症も存在します。定期的なフォローアップが必要です。

よくある質問(Q&A)

Q1. アルツハイマー病とどう違うのですか?
A. iNPHは治療可能な疾患であり、認知機能障害がある点では似ていますが、歩行障害やタップテストへの反応で区別されます。
Q2. シャント手術は高齢者でも可能ですか?
A. はい。高齢者でも全身状態が良ければ安全に実施可能です。実際、80歳以上で手術を受けるケースも増えています。
Q3. シャントは一生使うのですか?
A. 基本的には長期に渡って使用しますが、定期的な検査で調整や交換が必要になることもあります。

まとめ

特発性正常圧水頭症は、認知症やパーキンソン病と誤認されがちですが、適切な診断と治療によって症状の改善が見込める疾患です。歩行障害・認知障害・尿失禁という三大症状に心当たりがある場合は、早めに神経内科や脳神経外科の受診をおすすめします。

「歳のせい」では片付けられない症状を見逃さず、早期発見・早期治療を心がけましょう。

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