「移動精巣」とは、生まれつき精巣が陰嚢内に常に存在しない状態を指します。この症状は子どもに多く見られますが、適切な知識と早期の対応が大切です。本記事では、移動精巣の原因・症状・治療法・見分け方・予後などについて、医療的な観点から詳しく解説します。
移動精巣とは?正常な精巣との違い
通常、精巣は胎児期に腹腔内から陰嚢へと下降します。しかし「移動精巣(retractile testis)」の場合、精巣が時々陰嚢外へ上がってしまうことがあります。これは精巣挙筋の反射が強いために起こり、常に固定されていないのが特徴です。
種類 | 説明 | 特徴 |
---|---|---|
正常な精巣 | 陰嚢内に常時位置 | 触診で常に確認できる |
移動精巣 | 陰嚢に戻ったり消えたりする | 手で押すと戻るが、自然に上がる |
停留精巣 | 常に陰嚢外にある | 自然には戻らない。手術対象 |
移動精巣の原因と発生メカニズム
移動精巣は主に、精巣挙筋の反射が過敏であることが原因です。この筋肉が過度に収縮すると、精巣が鼠径部などへと引き上げられてしまいます。寒冷刺激やストレス、触診刺激によって反射が起きやすくなります。
- 精巣挙筋の反射亢進
- 低年齢(特に3歳未満)に多い
- 遺伝的要因やホルモンの影響も
症状と気づき方:親が見逃さないために
ほとんどの子どもは無症状です。ただし、次のようなサインが見られた場合には注意が必要です。
- お風呂で陰嚢が空っぽに見える
- 左右の陰嚢の大きさに差がある
- 子どもが陰部を触る頻度が多い
親御さんが定期的にお子さんの陰嚢を観察することが、早期発見につながります。
治療の必要性と対応方法
移動精巣は通常、成長とともに自然に治ることが多く、すぐに手術などの治療は不要です。ただし、次のような場合には医師の判断を仰ぎましょう。
- 精巣が陰嚢に戻らない
- 片側だけ常に確認できない
- 5歳を超えても症状が改善しない
治療方法としては以下のような選択肢があります。
方法 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
経過観察 | 半年~1年単位で観察 | 成長と共に自然に治る可能性が高い |
ホルモン療法 | hCGなどを注射 | 精巣の下降を促進 |
固定術(精巣固定術) | 手術により陰嚢に固定 | 5歳以降で自然下降しない場合に実施 |
移動精巣と不妊・がんのリスクは?
多くの親御さんが心配するのが、「移動精巣が将来の不妊や精巣がんのリスクにつながるか?」という点です。基本的に、移動精巣は自然に治るケースが多く、適切に観察・対処すれば重篤な影響はありません。
- 不妊の可能性:停留精巣と比べるとリスクは低いが、片側に長期間留まらない場合は注意
- 精巣がん:停留精巣よりもリスクはかなり低い
ただし、思春期以降に精巣が陰嚢内にない場合は、精密検査や手術を検討する必要があります。
Q&A:移動精巣についてよくある質問
- Q1. 移動精巣は放っておいても大丈夫?
- A1. 多くは自然に治りますが、5歳を過ぎても改善しない場合は泌尿器科受診をおすすめします。
- Q2. 自宅でできる確認方法はありますか?
- A2. 入浴中など体が温まった状態で、陰嚢を軽く触れて精巣が確認できれば問題ありません。
- Q3. 片側だけの移動精巣でも治療が必要ですか?
- A3. 経過観察が基本ですが、片側だけでも戻らないようであれば医師に相談しましょう。
まとめ:移動精巣は経過観察と早期発見がカギ
移動精巣は珍しい症状ではありませんが、成長とともに自然に改善することが多いです。大切なのは、親が早期に異変に気づき、必要に応じて専門医を受診することです。特に5歳以降で症状が改善しない場合や、陰嚢に常に精巣がない場合には、泌尿器科・小児科での精査が必要になります。
子どもの将来の健康のためにも、正しい知識と適切な対応が不可欠です。