はじめに:五十肩(肩関節周囲炎)とは?
「五十肩」は、主に40代から60代にかけて発症する肩の痛みの総称で、医学的には肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)と呼ばれます。
肩関節の周りにある腱や関節包(かんせつほう:関節を包む袋)、靱帯などが炎症を起こし、組織が硬くなることで、激しい痛みと肩の動きの制限(可動域の制限)が生じます。
五十肩の厄介な点は、痛みが強いために肩を動かさなくなると、ますます関節が固まってしまう(拘縮)という悪循環に陥りやすいことです。しかし、適切な治療とリハビリを継続すれば、多くの場合、痛みは改善し、肩の動きも回復します。
この記事では、五十肩の進行の仕組みを理解し、それぞれの段階に応じた正しい対処法を解説します。
1. 五十肩の原因と特徴
五十肩は、肩関節周辺の組織(特に腱板や関節包)に炎症が起こり、その後に組織が分厚く硬くなることで発症します。
発症の原因
明確な原因は特定されていませんが、加齢に伴い、肩関節周辺の組織が徐々に劣化し、小さな損傷や炎症が起こりやすくなることが背景にあります。特に誘因なく発症することが多いです。
五十肩と混同しやすい疾患
強い肩の痛みや動きの制限があっても、すべてが五十肩とは限りません。特に以下の疾患との鑑別が必要です。
- 腱板断裂(けんばんだんれつ):肩を上げる腱が部分的に、あるいは完全に切れている状態。五十肩と異なり、自力で腕を上げられないが、他人に動かしてもらえば動く(他動可動域は保たれる)場合が多い。
- 石灰沈着性腱板炎:腱の中にリン酸カルシウムの結晶が溜まり、突然の激痛を伴う急性炎症。
正確な診断と治療方針を定めるために、肩の専門医による診察と画像検査(X線、超音波、MRIなど)が不可欠です。
2. 五十肩の進行段階と症状
五十肩の経過は、一般的に以下の三つの段階を経て、数ヶ月から1年半ほどの期間で自然に治癒に向かいます。それぞれの段階で、痛みの性質と対処法が異なります。
特に注意すべき「夜間痛」
急性期に起こる夜間痛は、五十肩の最もつらい症状の一つです。これは、寝ている姿勢で肩関節の血流が悪くなり、炎症部位への圧迫が増すことが原因と考えられています。
- 対処法:痛む側の肩を上にして横向きに寝る、または背中にタオルやクッションを挟んで痛む肩に負担がかからないように工夫します。痛みが強い場合は、鎮痛剤を使用します。
3. 治療の基本:疼痛管理とリハビリテーション
五十肩の治療は、痛みをコントロールしながら、肩関節の動きを取り戻すためのリハビリテーションが中心となります。
1. 薬物療法・注射療法(痛みのコントロール)
- 急性期:炎症を抑え、痛みを和らげるために、内服薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)や湿布が使われます。特に夜間痛が強い場合は、ステロイド剤や局所麻酔薬の関節内注射が非常に有効です。
- 慢性期:リハビリをスムーズに行うために、痛みが残る場合は薬物療法を継続します。
2. リハビリテーション(拘縮の改善)
五十肩治療の成否を分けるのは、このリハビリです。
- 急性期:炎症を悪化させないよう、肩を温存する(動かさない)期間です。ただし、医師や理学療法士の指導のもと、無理のない範囲で関節を維持するための運動(アイソメトリック運動など)を行うこともあります。
- 慢性期:痛みが軽減したら、積極的に肩を動かす運動(ストレッチ)に移行します。肩甲骨周囲の柔軟性を高める運動や、振り子運動、棒を使った運動などを行い、硬くなった関節包を徐々に伸ばしていきます。
3. 温熱療法(慢性期)
慢性期に入り痛みが落ち着いたら、血行を良くし、関節を柔らかくするために温熱療法が有効です。入浴やホットパックで肩全体を温めてから、リハビリを行うと効果的です。
4. なかなか治らない場合の選択肢
保存療法(薬とリハビリ)を数ヶ月続けても改善が見られない場合や、痛みが強すぎる場合は、手術的な治療が検討されます。
- サイレントマニピュレーション:麻酔をかけ、眠っている間に医師が徒手的に肩関節を動かし、硬くなった関節包を剥がす方法です。劇的に可動域が改善することが期待されます。
- 関節鏡視下手術:関節鏡という内視鏡を使って肩の内部を観察しながら、硬くなった関節包を切開したり、炎症を起こした組織を取り除いたりする手術です。
まとめ:諦めずに専門家と二人三脚で
五十肩は、つらい症状ですが、必ず治癒に向かう病気です。大切なのは、痛みが強い急性期には安静と炎症の抑制、痛みが引いた慢性期には積極的なリハビリへと、段階に応じて正しい対処に切り替えていくことです。
肩の痛みや動きの制限を放置せず、適切なリハビリ指導のもと、着実に肩の機能回復を目指しましょう。
