進行性核上性麻痺(PSP)の進行速度とリハビリで維持できる機能:介護と嚥下障害への具体的な対策

進行性核上性麻痺(PSP)は、パーキンソン病よりも進行が早いことが多く、診断後まもなく生活機能に大きな影響が出始めるため、早期からの積極的なリハビリテーションと介護対策が不可欠です。

1. 進行速度とリハビリで維持できる機能

進行速度の特徴

PSPの進行速度には個人差がありますが、一般的にパーキンソン病よりも速く、診断から数年で歩行補助具や車椅子が必要となるケースが多いです。

  1. 診断後1~2年: 主にふらつき、転倒、視線麻痺が顕著になり、日常生活でのリスクが増加します。

  2. 診断後3~5年: 歩行が困難となり、車椅子や介護が必要となることが多くなります。嚥下障害が進行し、栄養管理が重要になります。

リハビリで「維持・習得」を目指す機能

PSPは根本治療が難しいため、リハビリは「治す」ことよりも「残存機能を最大限に活用し、合併症を予防する」ことを目的とします。

目的 具体的な機能とリハビリ内容
転倒予防 重心の移動練習、バランス訓練。特に後方への転倒を防ぐための意識的な姿勢の調整訓練。
視機能の代償 垂直方向の視線麻痺を補うため、首や体全体を動かして見るという動作を習得する(代償動作の練習)。
嚥下機能 嚥下体操や口腔ケアにより、嚥下反射を維持し、誤嚥性肺炎を予防する。
全身機能 関節の拘縮を防ぐためのストレッチや関節可動域訓練、筋力維持のための訓練。

2. 介護上の最重要課題:転倒と嚥下障害への対策

PSPの予後(経過)を大きく左右するのは、転倒による骨折嚥下障害による誤嚥性肺炎です。これらに対する具体的な介護対策が重要となります。

① 転倒リスクへの具体的な対策

PSPでは、特に初期から後ろへ倒れやすい(後方突進)という特徴があるため、環境整備と介護技術がポイントです。

対策内容 具体的な工夫
環境整備 家の段差をなくす、滑りやすい床にカーペットを敷く、トイレや廊下に手すりを設置する。
歩行補助具 症状が進行するにつれて、歩行器や杖の使用を検討する。後方突進を防ぐための工夫がされた歩行補助具の選択が望ましい。
介護技術 立ち上がりや方向転換の際、後ろへの重心移動を予測して介助者が支える。決して引っ張って立たせない

② 嚥下障害(むせ)への具体的な対策

嚥下障害は病気の進行とともに悪化し、命に関わる誤嚥性肺炎のリスクを高めます。

対策内容 具体的な工夫
姿勢の調整 食事の際はテーブルに両肘をついて、わずかに前かがみ(軽度前傾)の姿勢を保つ。首を反らせないようにする。
食事の形態 パサパサするもの(パン、クッキー)やサラサラしたもの(水、お茶)はむせやすいため避ける。
とろみ剤の活用 水分にはとろみ剤を使い、喉を通過するスピードを遅らせて、むせを防ぐ。
食事中の介助 一口量を少なくし、飲み込んだことを確認してから次の食べ物を口に入れる。

3. 介護を続ける家族へのサポート

PSPの介護は身体的な負担だけでなく、嚥下障害による食事の心配やコミュニケーションの難しさから、精神的な負担も大きくなります。

  • 介護者の休息:介護保険制度のリソース(デイサービス、ショートステイなど)を積極的に利用し、介護者が休息をとる時間(レスパイト)を確保することが極めて重要です。

  • 専門家との連携:主治医(神経内科)、訪問看護師、言語聴覚士(ST)、理学療法士(PT)など、多職種と密に連携し、適切な支援を受けましょう。

PSPは難病ですが、適切なリハビリと介護環境の整備により、QOLを維持することは可能です。