食道がんの最大の原因は、確かに飲酒(特にフラッシング反応がある人)と喫煙ですが、それ以外にも日本で増加傾向にある別の要因と、食道がんを誘発する生活習慣が存在します。
1. 食道がんの「本当の原因」:見落とされがちな要因
日本の食道がんは「扁平上皮癌」が主流ですが、近年、欧米で多い「腺癌」が増加傾向にあります。この腺癌の増加の背景には、逆流性食道炎が深く関わっています。
原因①:慢性的な逆流性食道炎(腺癌の主な原因)
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メカニズム: 胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。この炎症が長く続くと、食道の粘膜が胃の粘膜に近い状態に変化する「バレット食道」という前がん病変に進展し、腺癌のリスクを高めます。
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サイン: 頻繁な胸焼けや呑酸(すっぱいものが上がってくる感覚)は、食道粘膜が常に胃酸に曝されているサインです。
原因②:熱い飲食物の習慣的摂取
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メカニズム: 極端に熱い食べ物や飲み物を習慣的に摂取すると、食道の粘膜に繰り返しの熱傷(やけど)を負わせ、細胞のDNAに損傷を与え、がん化のリスクを高めます。
原因③:栄養状態の偏り
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メカニズム: ビタミン(特にA、C、E)やミネラル、食物繊維といった抗酸化作用を持つ栄養素の不足は、細胞の酸化ストレスを高め、発がんリスクを上昇させると指摘されています。
2. 予防に効く3つの生活習慣
飲酒・喫煙の中止が絶対条件ですが、それに加えて以下の3つの生活習慣を取り入れることで、多角的に食道がんのリスクを下げることができます。
習慣①:逆流を防ぐための「夜間の姿勢調整」
食道腺癌の原因となる胃酸逆流を物理的に防ぐ対策です。
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実践: 食後2〜3時間は横にならない。就寝時には、上半身を少し高くして寝る(傾斜枕の使用やベッドの頭側を上げるなど)。
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目的: 胃酸が重力によって食道へ逆流するのを防ぎ、慢性的な炎症を防ぎます。
習慣②:熱すぎない「適温」での飲食習慣
食道粘膜への慢性の物理的刺激を防ぎます。
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実践: 飲み物やスープは、「熱い」と感じる温度(約65℃以上)で飲むのを避け、少し冷ましてから飲む習慣を徹底する。
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目的: 粘膜細胞の損傷と修復のサイクルを減らし、細胞の異常な増殖を防ぎます。
習慣③:抗酸化作用の高い「野菜と果物」の積極摂取
粘膜の防御力を高め、DNAの損傷を防ぎます。
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実践: 緑黄色野菜や柑橘類など、ビタミンや葉酸を豊富に含む食品を日常的に摂取する。
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目的: これらの栄養素は、体内の活性酸素(細胞を傷つける物質)を減らし、発がん物質の影響を緩和する働き(ケモプレベンション)が期待されます。
最重要事項:定期的な内視鏡検査
リスク因子を持つ方は、これらの予防策と並行して、定期的な内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが最も重要です。早期の食道がんは自覚症状がないため、検査による早期発見が命を守る唯一の方法です。
