脾臓(ひぞう)は、左のあばら骨の下にある握りこぶし大の臓器で、「血液の工場」や「古い血球の墓場」とも呼ばれます。主な役割は、古くなった血球の破壊・処理、免疫機能、血液貯蔵です。
脾腫(脾臓が腫れること)は、これらの役割が過剰になったり、異常な細胞が流れ込んだりすることで起こる症状であり、背後に重篤な病気が隠れているサインである可能性があります。
1. 脾臓が腫れる主な原因(3つのメカニズム)
脾臓が腫れる原因は多岐にわたりますが、メカニズムから大きく以下の3つに分類できます。
① 血液の処理が間に合わない(うっ血性)
脾臓の主な役割である血液の処理や貯蔵が、何らかの理由で過剰になったり、出口が詰まったりすることで起こります。
- 肝硬変・慢性肝炎: 肝臓の病気により、脾臓から肝臓へ向かう血管(門脈)の圧が上がり(門脈圧亢進)、脾臓に血液がたまって腫れます。
② 異常な細胞が増殖・浸潤(しんじゅん)する(増殖性・悪性)
がん細胞や異常な血液細胞が脾臓内に流れ込み、異常に増殖することで腫れます。
- 白血病・悪性リンパ腫: 血液のがん細胞が脾臓に集積し、腫大させます。
- 骨髄線維症: 骨髄で血液が作れなくなり、脾臓がその機能を代行しようと働きすぎることでも腫れます。
③ 免疫反応が過剰になる(炎症・感染性)
ウイルスや細菌に対する免疫反応として、脾臓内のリンパ球が増殖して腫れます。
- 感染症: 伝染性単核球症(EBウイルス)、マラリア、化膿性炎症など。
- 膠原病: 全身性エリテマトーデス(SLE)など。
2. 放置してはいけない危険な病気のサイン
脾腫はそれ自体では症状が出にくいことが多いですが、以下の症状を伴う場合は、重篤な病気が進行しているサインです。
危険なサイン①:全身症状(白血病・悪性リンパ腫の可能性)
| サイン | 特徴と疑われる病気 |
| 不明熱 | 感染症とは考えにくい、原因不明の38℃以上の発熱が続く。 |
| B症状 | 寝汗(びっしょり濡れる)、体重減少(6ヶ月で10%以上)。 |
| 倦怠感・息切れ | 異常な貧血(脾臓での血球破壊が過剰になるため)。 |
| 出血傾向 | 鼻血や歯茎からの出血が止まりにくい(血小板減少)。 |
危険なサイン②:肝臓疾患のサイン(肝硬変の可能性)
| サイン | 特徴と疑われる病気 |
| 黄疸 | 皮膚や白目が黄色くなる。 |
| 腹水 | お腹が張って苦しい、足のむくみ。 |
| 肝臓の既往 | B型・C型肝炎ウイルスキャリアである、または長期間の多量飲酒歴がある。 |
3. 脾腫に気づいた時の対処と受診の目安
脾腫に気づく方法
多くの人が腹部の膨満感や、左のあばら骨の下あたり(左季肋部)に「なんとなく重い、押すと痛い」といった違和感で気づきます。
受診すべき判断基準
上記のような全身症状を伴う場合や、特に症状がなくても健康診断などで血液検査の異常(白血球や血小板の極端な増減)を指摘され、その精密検査として脾腫が見つかった場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 受診窓口: 内科(特に血液内科、消化器内科、または総合内科)
- 検査: 腹部超音波検査(エコー)やCT検査で脾臓の大きさを確認し、血液検査で原因疾患を特定します。
脾腫は「結果」であり「原因」ではありません。その背後にある病気を早期に発見し、治療を開始することが重要です。
