1. 橋本病と甲状腺機能低下症の違い
この二つの用語は混同されがちですが、橋本病は「原因となる病名」であり、甲状腺機能低下症は「症状・状態」を指します。
| 項目 | 橋本病(慢性甲状腺炎) | 甲状腺機能低下症 |
| 定義 | 自己免疫疾患の病名。自身の免疫が甲状腺を攻撃し、慢性的な炎症を起こす病気。 | 甲状腺ホルモンが不足している状態。体の代謝が低下する症状を伴う。 |
| 関係性 | 甲状腺機能低下症の最も一般的な原因。橋本病でも甲状腺機能が正常な場合もある。 | 橋本病が進行すると、甲状腺が破壊され、この状態になる。 |
| 初期症状 | 首の腫れ(甲状腺腫)や、軽い喉の違和感など。 | 全身の倦怠感、むくみ、寒がり、体重増加など、代謝低下の症状。 |
| 治療 | 機能が正常なら経過観察。機能が低下したらホルモン補充療法(チラージン)。 | 不足しているホルモンを補うチラージン治療を行う。 |
要するに
橋本病は、甲状腺という工場を攻撃する「事件」の名前であり、甲状腺機能低下症は、その事件の結果「ホルモンという製品が不足した状態」の名前です。
2. チラージン(レボチロキシン)治療と副作用
甲状腺機能低下症の治療は、不足している甲状腺ホルモンを補う甲状腺ホルモン薬(チラージンSなど、成分名:レボチロキシン)による補充療法が中心です。
チラージンの副作用(注意すべきは過剰摂取)
チラージンSは、体内で作られるホルモンと同じ成分であるため、適切な量を服用している限り、副作用はほとんどありません。
しかし、服用量が多すぎると、逆に甲状腺ホルモンが過剰になった状態(人工的な甲状腺機能亢進症)になり、以下のような症状が出ることがあります。
| 症状 | メカニズム |
| 動悸・頻脈 | ホルモン過剰により心臓が過剰に働き、脈拍が速くなる。 |
| 手指の震え | 交感神経が刺激され、手足に微細な震えが出現する。 |
| 発汗・暑がり | 全身の代謝が上がりすぎ、体温が上昇し、暑がりになる。 |
| 不眠・イライラ | 神経が過敏になり、寝つきが悪くなったり、落ち着きがなくなったりする。 |
これらの症状が出た場合は、すぐに自己判断で薬を中止せず、主治医に相談し、血液検査でホルモン量を調整してもらう必要があります。
3. 服薬継続の必要性:なぜ飲み続けなければならないのか
甲状腺機能低下症の治療において、服薬の継続は非常に重要であり、自己判断での中止は絶対にしてはいけません。
① 慢性的な病態であること
橋本病による機能低下は、甲状腺が免疫により破壊された結果であり、甲状腺が自力でホルモンを生成する能力は回復しません。薬の服用は、機能を失った甲状腺の**「代行」であるため、基本的には生涯にわたって続ける**必要があります。
② 中止による重篤なリスク
服薬を中止すると、数週間〜数ヶ月で再びホルモンが不足し、以下の重篤なリスクを招きます。
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症状の再燃・悪化: 全身の倦怠感、むくみ、うつ症状などが再発し、日常生活に大きな支障をきたします。
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粘液水腫性昏睡: 極端にホルモンが不足すると、低体温や意識障害を引き起こす生命に関わる状態に陥る可能性があります。
症状が安定しても、それは薬が効いている証拠です。自己判断で薬を中断せず、定期的な血液検査に基づいて、医師と相談しながら最適な服用量を維持し続けることが、健康な生活を送るための鍵となります。
