【緊急サイン】突然の腹痛と血便(下血)は虚血性大腸炎?原因と入院せずに治す治療法

虚血性大腸炎(Ischemic Colitis)は、大腸の血管に一時的な血流障害が起こり、大腸の粘膜が炎症を起こしたり、ただれたりする病気です。突然の腹痛と血便(下血)という明確な症状で発症することが多く、特に高齢者や生活習慣病を持つ方に多い病態ですが、若い世代でもストレスや特定の原因によって発症することがあります。

この病気の症状は非常に特徴的であるため、「突然の腹痛と血便」というサインを見逃さず、正しく対処することが重要です。適切な診断と治療が行われれば、ほとんどのケースで入院せずに、数日から数週間で回復が見込まれます。本記事では、虚血性大腸炎の原因、セルフチェック、そして入院せずに治すための治療法について専門的な視点から解説します。

虚血性大腸炎の発生メカニズムと主な原因

虚血性大腸炎は、大腸の血流が何らかの原因で一時的に低下し、大腸の細胞が必要とする酸素や栄養が不足することで起こります。特にS状結腸や下行結腸など、血流が途絶えやすい「境目」の部位で発症しやすい傾向があります。

血流低下のメカニズム

  1. 動脈硬化による血管の狭窄:高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病により動脈硬化が進行し、大腸の血管が狭くなっていると、血流が低下しやすい。
  2. 低血圧やショック状態:心臓病や重度の脱水、出血などにより、全身の血圧が急激に低下した際に、大腸への血流が優先的に制限される。
  3. 血管の攣縮(れんしゅく):過度なストレスや緊張、特定の薬剤(一部の血管収縮作用のある薬)の影響で、大腸の血管が一時的に痙攣し、血流が遮断される。

発症の引き金となる要因

虚血性大腸炎は、上記の基礎的な血流低下に加え、以下の要因が「引き金」となって急性に発症することが多いです。

  • 便秘:排便時に強く腹圧をかける(いきむ)ことで、大腸内の圧力が上がり、一時的に血流が遮断される。高齢者や便秘がちな方によく見られるパターンです。
  • 過度のストレス:ストレスにより自律神経が乱れ、血管が過剰に収縮し、血流が悪くなる。
  • 特定の薬剤:便秘薬(特に刺激性の下剤の乱用)、片頭痛薬、一部の降圧薬などが原因となることがあります。

虚血性大腸炎の緊急サインとセルフチェック

虚血性大腸炎は非常に特徴的な症状で発症するため、以下のサインに当てはまる場合は強く疑う必要があります。

緊急サイン:3つの初期症状

  1. 突然の激しい腹痛:多くは左側の下腹部(S状結腸あたり)に、突然、強い差し込むような痛みや、持続的な痛みが現れるのが特徴です。
  2. 下痢・便意切迫:腹痛の直後、または数時間以内に激しい下痢や、強い便意(しぶり腹)を感じます。
  3. 血便(下血):腹痛と下痢の後、数時間以内、または翌日に粘液や血液の混じった便(血便、下血)が出現します。鮮やかな赤い血が混じるのが一般的です。

症状のセルフチェック

以下の項目に多く当てはまる場合は、虚血性大腸炎の可能性が高いです。

  • □ 症状が始まる数時間前に、激しく「いきんだ」または「腹痛」があった。
  • □ 症状が始まる前に、強い精神的ストレスを感じていた。
  • □ 腹痛と血便が、他の食中毒やウイルス性胃腸炎のように嘔吐や発熱を伴わない。
  • □ 普段から便秘がちである。
  • □ 高血圧や糖尿病といった生活習慣病の持病がある。

入院せずに治す!虚血性大腸炎の標準的な治療法

虚血性大腸炎は、重症化して壊死(えし)に至るケースを除き、ほとんどの場合は「大腸を休ませる」ことと「対症療法」によって自然に治癒します。入院せずに自宅で治す場合の標準的な治療法は以下の通りです。

① 絶食・食事制限による「大腸の安静」

治療の基本は、炎症を起こしている大腸を休ませることです。

  • 発症直後(急性期):激しい腹痛と血便がある間は、数日間(医師の指示に従い)、食事を中止し、絶食(水分のみ摂取)または流動食(お粥の上澄み、具なしスープなど)に切り替えます。
  • 回復期:症状が落ち着いたら、低脂肪・低残渣(ていざんさ)の消化しやすい食事(おかゆ、うどん、白身魚、豆腐など)から徐々に再開します。食物繊維の多いもの(野菜、きのこ、海藻など)は刺激になるため、回復初期は避けます。

② 対症療法と投薬

炎症や痛みを抑え、血流の改善を促すための投薬が行われます。

  • 腸管運動抑制薬の原則中止:下痢止め(ロペラミドなど)は、大腸内に刺激物を留めてしまう可能性があるため、原則使用しません。
  • 抗菌薬(抗生物質):炎症が強い場合や発熱を伴う場合、細菌による二次感染を防ぐ目的で短期間使用されることがあります。
  • 鎮痙薬・鎮痛薬:痛みが強い場合は、大腸の異常な収縮を抑える薬(鎮痙薬)や、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)以外の鎮痛薬が処方されます。
  • 補液:下痢や絶食による脱水症状を防ぐため、経口補水液などで十分な水分補給を行います。

③ ストレスと生活習慣の改善

再発予防と根本的な治療のために、原因となる生活習慣を改善します。

  • 便秘の解消:排便時に激しくいきむのを避けるため、水分やマグネシウム製剤など、穏やかな効果のある下剤で便を柔らかく保ちます。
  • ストレス管理:自律神経の乱れを防ぐため、十分な睡眠と休息を確保し、ストレス解消のための時間を作ります。
  • 基礎疾患の治療:高血圧や糖尿病などの持病がある場合は、主治医と連携し、血流の改善に努めます。

病院へ行く判断基準と検査の必要性

虚血性大腸炎は、ほとんどの場合良性の経過をたどりますが、自己診断は危険です。症状が潰瘍性大腸炎やクローン病、感染性腸炎、さらには腸閉塞や大腸がんなど、他の重篤な病気と区別がつかないため、必ず消化器内科を受診してください。

【緊急】すぐに受診すべき状態

以下の症状が見られた場合は、重症型である可能性や、他の病態が疑われるため、速やかに病院へ向かってください。

  • 症状が改善せず、激しい痛みが2日以上続く場合。
  • 高熱(38.5℃以上)を伴う場合。
  • 血便の量が増加し、貧血症状(ふらつき、倦怠感)が見られる場合。
  • 腹部が板のように硬く張り、痛みが広範囲に及ぶ場合(腸管壊死の可能性)。

診断のための検査

虚血性大腸炎の確定診断には、以下の検査が重要です。

  1. 大腸内視鏡検査(胃カメラ):大腸の粘膜を直接観察し、特徴的な発赤や浮腫、境界のはっきりした潰瘍などを確認します。虚血性大腸炎の確定診断には必須の検査です。
  2. 腹部CT検査:大腸の壁の肥厚(むくみ)や、他の病気(腸閉塞、憩室炎など)がないかを確認します。
  3. 血液検査:炎症反応(CRPや白血球)の程度や、貧血の有無、脱水の状態を評価します。

虚血性大腸炎は、早期に診断されれば怖がる必要はありません。突然の腹痛と血便というサインが出たら、すぐに消化器内科を受診し、適切な治療と安静を保つことが、早期回復への最も確実な方法です。