異常な発汗、動悸、体重減少…「バセドウ病」とは?症状、原因、診断、そして治療法を解説

はじめに:なぜ体がアクセルを踏み続けるのか?

「最近、やたらと汗をかく」「ドキドキと動悸が止まらない」「よく食べるのに体重が減っていく」—これらの症状に心当たりがある場合、それはバセドウ病(Basedow’s disease)のサインかもしれません。

バセドウ病は、甲状腺(こうじょうせん)という臓器が異常に活発になり、体が必要とする以上にホルモン(甲状腺ホルモン)を過剰に作り出すことで起こる自己免疫疾患の一つです。甲状腺ホルモンは全身の代謝をコントロールする「アクセル」のような役割を担っているため、この病気になると、体が常にフル回転しているような状態になってしまいます。

バセドウ病は、適切な診断と治療を受けることで、症状をコントロールし、健康的な日常生活を送ることが十分に可能です。

この記事では、バセドウ病のメカニズム、特徴的な症状、そして治療の選択肢について解説します。

1. バセドウ病の正体:自己免疫の異常と甲状腺ホルモンの過剰分泌

バセドウ病は、自己免疫疾患に分類されます。自己免疫疾患とは、本来、体内に侵入した異物を攻撃・排除するはずの免疫システムが、何らかの異常で自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。

異常な抗体(TSH受容体抗体)の働き

バセドウ病の場合、免疫システムが「TSH受容体抗体(TRAb)」と呼ばれる異常な抗体を作り出してしまいます。

この抗体は、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の代わりに甲状腺の細胞を刺激し続けます。その結果、甲状腺は常に「もっとホルモンを作れ」という指示を受け続け、甲状腺ホルモンが血液中に過剰に分泌されてしまうのです。この状態を甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)と呼びます。

甲状腺ホルモンの役割

甲状腺ホルモンは、体温調節、心臓の動き、消化器の動き、精神活動など、全身の代謝を高める役割があります。これが過剰になると、全身の活動レベルが異常に高まります。

2. 見逃せない!バセドウ病の主な症状

甲状腺ホルモンが過剰になることで、全身の臓器に影響が現れます。症状は人によって異なりますが、以下の3つが特に有名です。

1. 全身の代謝亢進による症状

  • 動悸・頻脈:心臓が常に早く打つようになります。安静時でも脈拍が速いのが特徴です。
  • 体重減少:食事量が増えるにもかかわらず、代謝が上がりすぎるため、体重が減少します。
  • 異常な発汗・暑がり:常に代謝が上がっているため体温が高く、暑がりになり、多量の汗をかきます。
  • 手指の震え:細かい、速い震え(振戦)が手足に現れることがあります。

2. 甲状腺の腫れ(甲状腺腫)

甲状腺全体が腫れて大きくなり、首の前面(のど仏の下あたり)が膨らんで見えることがあります。腫れの大きさは人によって様々です。

3. 眼の症状(バセドウ病眼症)

眼球の奥にある脂肪や筋肉が腫れることで、眼球が前に押し出され、目が飛び出したように見える(眼球突出)症状が現れることがあります。これは甲状腺の病気の治療とは別に、眼科的な治療が必要になる場合があります。

4. 精神神経症状

  • イライラ・落ち着きのなさ:神経が過敏になり、感情の起伏が激しくなります。
  • 不眠:興奮状態が続くため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。

3. バセドウ病の診断プロセス

バセドウ病が疑われる場合、主に内分泌内科や甲状腺専門の医療機関を受診します。診断は比較的容易で、以下の検査が中心となります。

1. 血液検査(ホルモン値の測定)

  • 甲状腺ホルモン(FT3, FT4):異常に高値になります。
  • TSH(甲状腺刺激ホルモン):甲状腺ホルモンが過剰なため、脳下垂体からのTSHは逆に抑制され、非常に低い値になります。
  • 抗体検査(TRAbなど):甲状腺を刺激している異常な抗体(TSH受容体抗体)の有無を確認し、バセドウ病であるかを確定します。

2. 超音波(エコー)検査

甲状腺の大きさ、形、内部の血流の状態を確認します。バセドウ病では、甲状腺全体が腫れており、血流が増加していることが確認されます。

3. その他の検査

心電図検査で頻脈や不整脈の有無を確認したり、必要に応じてシンチグラフィ(放射性ヨードを取り込ませる検査)を行うこともあります。

4. バセドウ病の治療法:3つの柱

バセドウ病の治療は、過剰な甲状腺ホルモンの働きを抑え、ホルモン値を正常に戻すことを目的とします。主に以下の3つの治療法から、患者さんの年齢、症状、甲状腺の大きさ、ライフスタイルを考慮して選択されます。

1. 薬物療法(抗甲状腺薬)

  • 治療の第一選択肢:甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬(チアマゾールやプロピルチオウラシルなど)を服用します。
  • 注意点:治療を開始してホルモン値が正常に戻るまで数週間かかります。また、ごくまれに重篤な副作用(無顆粒球症など)があるため、定期的な血液検査が不可欠です。
  • 目標:薬でホルモン値を正常に保ち、数年間の治療で寛解(薬がいらなくなる状態)を目指します。

2. 放射性ヨウ素内用療法

  • メカニズム:放射性ヨウ素(アイソトープ)を内服すると、甲状腺の細胞に取り込まれます。放射線の作用で、過剰に働く甲状腺細胞を破壊し、ホルモンの分泌量を減らします。
  • 利点:入院不要で簡便です。甲状腺が残るため、手術のような傷跡が残りません。
  • 適応:甲状腺の腫れがそれほど大きくない場合や、薬物療法の副作用で治療が難しい場合などに選択されます。

3. 手術療法(甲状腺亜全摘術など)

  • メカニズム:甲状腺の一部または大部分を切除し、ホルモンを作る細胞の量を減らします。
  • 利点:比較的短期間で治癒が期待でき、効果が確実です。
  • 適応:甲状腺の腫れが非常に大きい場合、薬物療法が効かない場合、早期に妊娠を希望する場合などに選択されます。

5. 日常生活で大切なことと注意点

バセドウ病の治療期間中は、心臓への負担を避けることが特に重要です。

  • 安静の確保:ホルモン値が高い間は、心臓に大きな負担がかかっています。激しい運動は避け、十分な休息を心がけてください。
  • 禁煙:喫煙はバセドウ病を悪化させ、特に眼症の発症リスクを高めることが明らかになっています。
  • 服薬の継続:自己判断で薬の服用を中止すると、症状が再燃し、より重篤な状態になる危険性があります。必ず医師の指示に従い、服薬を継続してください。

まとめ:早期発見と継続治療でコントロールできる病気

バセドウ病は、体の代謝を異常に高める自己免疫疾患ですが、適切な治療法が確立されています。

バセドウ病の要点 説明
病気の原因 異常な抗体(TRAb)による甲状腺ホルモンの過剰分泌。
主な症状 動悸・頻脈、体重減少、異常な発汗、甲状腺の腫れなど。
治療の選択肢 薬物療法、放射性ヨウ素内用療法、手術療法の三つ。
取るべき行動 症状に気づいたら、内分泌内科または甲状腺専門医を受診する。

動悸や異常な体重減少など、体に異変を感じたら、「更年期だから」「忙しいから」と見過ごさずに、必ず専門医にご相談ください。早期に診断を受け、専門医とともに治療に取り組むことが、バセドウ病をコントロールし、快適な生活を取り戻すための鍵となります。

本記事は情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。診断や治療については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。