猪苓湯

猪苓湯(ちょれいとう)について

猪苓湯は、漢方処方の一つであり、五淋散(ごりんさん)と並んで排尿異常や炎症を伴う泌尿器系の疾患に用いられる代表的な処方です。利尿作用や抗炎症作用、止血作用などがあるとされ、膀胱炎や尿道炎、腎炎、ネフローゼなど、幅広い泌尿器系の症状に用いられます。体力に関わらず使用できる比較的穏やかな処方とされています。

(猪苓湯の顆粒または錠剤のパッケージの画像)

主成分

猪苓湯は、以下の5種類の生薬から構成されています。

  1. 猪苓(ちょれい): サルノコシカケ科のマンネンタケの菌核を乾燥させたもの。利尿作用、抗炎症作用、止渇作用などがあるとされます。体内の余分な水分を排出し、炎症を鎮める効果が期待されます。
  2. 茯苓(ぶくりょう): サルノコシカケ科のマツホドの菌核を乾燥させたもの。利尿作用、健脾作用、鎮静作用などがあるとされます。水分代謝を改善し、胃腸の働きを助け、精神安定にも関与すると考えられています。
  3. 沢瀉(たくしゃ): オモダカ科のサジオモダカの塊茎を乾燥させたもの。利尿作用があり、体内の余分な水分を排出する効果が期待されます。
  4. 阿膠(あきょう): 牛科のウシまたはスイギュウの皮を水で煮て濃縮した膠。止血作用、補血作用、潤燥作用などがあるとされます。炎症による出血を抑えたり、体の潤いを補う効果が期待されます。
  5. 滑石(かっせき): 含水ケイ酸マグネシウムを主成分とする鉱物。利尿作用、清熱作用、止瀉作用などがあるとされます。体内の熱を取り除き、排尿を促す効果が期待されます。

これらの生薬が、それぞれの薬理作用を発揮し、複合的に効果を示すと考えられています。

分類

  • 漢方製剤

効能・効果

比較的体力のない方で、排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみなどの症状がある場合に、以下の疾患に用いられます。

  • 膀胱炎
  • 尿道炎
  • 腎炎
  • ネフローゼ
  • 尿路結石

これらの症状は、炎症や水分代謝の異常によって引き起こされることがあり、猪苓湯は利尿作用や抗炎症作用によってこれらの症状の改善を目指します。特に、排尿時の痛みや残尿感といった炎症性の症状を伴う場合に適しているとされています。

用法・用量

  • 煎剤: 生薬を一定量配合し、水で煎じて服用します。通常、成人1日量として、猪苓3.0g、茯苓3.0g、沢瀉3.0g、阿膠2.0g、滑石3.0gを水約600mLで半量になるまで煎じ、1日3回に分けて食前または食間に服用します。
  • 顆粒剤・錠剤: 医療用医薬品として、上記煎剤の有効成分を抽出・乾燥させた顆粒剤や錠剤があります。通常、成人1日量として、製剤により定められた量を1日3回に分けて食前または食間に水または白湯で服用します。

いずれの場合も、年齢、体重、症状により適宜増減されます。必ず医師または薬剤師の指示に従って服用してください。

副作用

漢方薬は一般的に副作用が少ないとされていますが、体質や症状によっては以下のような副作用が現れることがあります。

  • 消化器症状: 胃部不快感、食欲不振、下痢など
  • 過敏症: 発疹、かゆみなど

まれに、以下の重大な副作用が報告されることがあります。

  • 肝機能障害: AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなどの上昇を伴う肝機能障害が現れることがあります。
  • 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、脱力感などの症状が現れることがあります。
  • ミオパチー: 低カリウム血症の結果として、脱力感、筋肉痛などが現れることがあります。

これらの症状が現れた場合には、直ちに服用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。

その他

  • 猪苓湯は、比較的体力のない方にも使用できるとされていますが、証(しょう:体の状態や体質)に合わない場合には効果が得られないだけでなく、副作用が現れる可能性もあります。漢方専門の医師や薬剤師に相談し、自身の体質や症状に合った漢方薬を服用することが重要です。
  • 他の医薬品や漢方薬と併用する場合には、相互作用の可能性も考慮する必要がありますので、必ず医師または薬剤師に相談してください。
  • 妊娠中または授乳中の方、あるいは妊娠している可能性のある方は、服用前に医師に相談してください。
  • 小児への投与については、医師または薬剤師の指示に従ってください。

注意事項

  • この情報は猪苓湯の一般的な情報であり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。
  • 必ず医師または薬剤師の指示に従って服用してください。
  • より詳しい情報が必要な場合は、添付文書をご確認いただくか、医師または薬剤師にご相談ください。