抑肝散

抑肝散(ヨクカンサン)について

抑肝散は、日本で古くから用いられてきた漢方薬の一種です。神経の高ぶりやイライラ、不眠などの精神神経症状、手足のひきつりや神経痛などに効果があるとされています。体力中等度以下の方で、神経がたかぶりやすい、怒りやすいといった精神的な興奮を伴う症状に適しています。

主成分

抑肝散は、以下の7種類の生薬から構成されています。

  1. 釣藤鈎(チョウトウコウ): 鎮静作用、鎮痙作用があるとされ、神経の高ぶりや手足の震え、ひきつりなどに用いられます。
  2. 柴胡(サイコ): 気の流れを整え、精神的な不安やイライラを和らげる効果があるとされます。炎症を抑える作用も期待されています。
  3. 当帰(トウキ): 血行を促進し、女性ホルモンのバランスを整える作用があるとされ、精神不安や不眠、月経不順などに用いられます。
  4. 茯苓(ブクリョウ): 利水作用、鎮静作用があるとされ、むくみやめまい、不安感、不眠などに用いられます。
  5. 蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ): 消化機能を高め、水分代謝を改善する作用があるとされ、胃もたれや食欲不振、むくみなどに用いられます。処方によっては蒼朮または白朮のいずれかが配合されています。
  6. 甘草(カンゾウ): 炎症を抑え、痛みを和らげる作用、また他の生薬の作用を調和する効果があるとされます。
  7. 川芎(センキュウ): 血行を促進し、頭痛や肩こり、生理痛などに用いられます。精神安定作用も期待されています。

これらの生薬が複雑に作用し合うことで、抑肝散としての効果を発揮します。

分類

  • 漢方製剤

効能・効果

比較的虚弱な体質で神経がたかぶりやすく、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:

  • 神経症
  • 不眠症
  • 小児夜泣き
  • 歯ぎしり
  • 更年期障害
  • 血の道症

**「血の道症」**とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状を指します。

近年では、高齢者の認知症に伴う周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)、例えば興奮、焦燥感、易怒性、不眠などに対しても効果が期待され、臨床試験なども行われています。

用法・用量

  • 通常、成人には1日7.5gを2~3回に分割し、食前または食間に経口投与します。
  • 年齢、体重、症状により適宜増減されます。
  • 剤形によって用法・用量が異なる場合がありますので、添付文書をよく読んで、医師または薬剤師の指示に従ってください。
  • 顆粒剤、細粒剤、錠剤、エキス剤など様々な剤形があります。

副作用

抑肝散は比較的安全な漢方薬とされていますが、体質や症状によっては副作用が現れることがあります。主な副作用としては、以下のものが報告されています。

  • 消化器症状: 胃部不快感、食欲不振、吐き気、下痢など
  • 過敏症: 発疹、かゆみなど

重大な副作用としては、まれに以下のものが報告されています。

  • 偽アルドステロン症: 長期間または大量に服用した場合、低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、手足のだるさ、しびれなどが現れることがあります。これは、甘草に含まれる成分が影響することがあります。
  • ミオパチー: 長期間または大量に服用した場合、筋肉痛、脱力感などが現れることがあります。これも甘草に含まれる成分が影響することがあります。
  • 肝機能障害: まれに、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTPなどの肝機能検査値の上昇が現れることがあります。

これらの副作用が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。特に、高齢者や長期服用する場合には、定期的な検査を受けることが推奨されます。

その他

  • 医師の治療を受けている人や、他の医薬品(特に甘草を含む製剤や利尿剤など)を服用している場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。
  • 妊娠または授乳中の方、あるいは妊娠している可能性のある方は、服用前に医師に相談してください。
  • 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させてください。
  • 服用しても症状の改善が見られない場合は、医師または薬剤師に相談してください。
  • 直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい所に保管してください。
  • 小児の手の届かない所に保管してください。
  • 誤用を避け、品質を保持するため、他の容器に入れ替えないでください。

注意事項

この情報は抑肝散の一般的な情報であり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。漢方薬は個人の体質や症状に合わせて処方されるため、必ず医師または薬剤師の診断と指示に従って服用してください。 自己判断での服用や中止は危険を伴う可能性があります。

より詳しい情報や個別の相談については、医師または薬剤師にお尋ねください。