前頭側頭型認知症とは?

前頭側頭型認知症とピック病の関係

前頭葉と側頭葉に限局した脳萎縮がみられる認知症は前頭側頭葉変性症としてまとめられています。前頭側頭葉変性症は、臨床症状から前頭側頭型認知症と意味性認知症、進行性非流暢性失語に大別されます。前頭側頭型認知症は、前頭葉に脳萎縮が優位に目立ち、意味性認知症では側頭葉に萎縮がみられることが多いとされています。しばしば耳にするピック病は、医学的な考え方に混乱がみられる病気ですが、ここでは、この前頭側頭型認知症と意味性認知症とを合わせた病名として理解しておくとよいでしょう。

前頭葉や側頭葉に障害がみられるピック病は、社会行動の障害や人格の変化が主な症状になる病気です。記憶障害や場所に対する認識の障害(見当識障害)などが主な症状になるアルツハイマー病とは比較的区別しやすいものです。アルツハイマー病よりも患者さんの数は圧倒的に少ないといわれています。

前頭側頭型認知症の特徴

最も目立つ特徴は、社会的な規範に従った行動ができなくなることです。会社や地域で自分勝手な言動や行動がしばしばみられ、無銭飲食や窃盗など法律に触れる行為を行うことも少なくありません。ただ、患者さん本人は、自分では悪いことをしているという自覚に欠ける、あるいは意に介していません。

周囲や家庭内の出来事、さらに自分自身に対して無関心になる場合もしばしばみられます。たとえば、配偶者が急病で入院しても我関せずの態度を示すことがあります。

感情の障害では、無表情、喜怒哀楽の欠如、イライラが目立ち、不機嫌、怒りっぽい、多幸的など、さまざまな症状がみられます。

日常生活で同じ言動を繰り返す常同行為も特徴的な症状です。たとえば、職場にもっていく弁当のおかずが毎日同じ物で、弁当箱の同じ場所におかずを詰める、朝昼晩毎食ヨーグルトと納豆を食べる、毎朝同じ時刻に郵便局に出かけて通報を確認するなどの行動障害がみられます。この常同行為が極端になると、時刻表的生活と呼ばれるように、毎日の生活が判を押したように決まった行動パターンになることもあります。

食行動にも変化がみられます。ピック病の患者さんは、甘い物を好むようになるといわれています。たとえば、コーヒーに砂糖を何十杯も入れる、羊羹を丸ごと5本食べてしまうなど、常識では考えられない行動を示すことになります。

言葉の障害として、単語の意味がわからなくなることも特徴のひとつです。たとえば、「リンゴ」をみせても名前が出てこない、リンゴという名前を教えても「えっ、リンゴって何?」と答えたりします。

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