「普通の毎日なのに、なぜこんなに面白いんだろう?」
そんな気持ちにさせてくれる小説家が、宮島未奈です。
『成瀬は天下を取りにいく』で一躍注目を集め、その後も『成瀬は信じた道をいく』『それいけ!平安部』『好き好き大好き超愛してる。』など、独特のユーモアと温かさを持った作品を発表しています。
宮島未奈の小説の大きな魅力は、特別な能力を持ったヒーローや、壮大な事件を描くことではありません。
学校。
家族。
友達。
地元。
進学。
仕事。
恋愛。
そうした誰にでもある日常を舞台にしながら、「この人、ちょっと変わっている」という人物を中心に物語を動かしていくところにあります。
そして、その「ちょっと変わっている人物」が、周囲の人たちの人生まで少しずつ変えていく。
その代表が、『成瀬は天下を取りにいく』の主人公・成瀬あかりです。
周囲の目を気にせず、自分がやりたいことを次々と実行する成瀬。
一見すると、かなり変わった女の子です。
しかし、読み進めていくうちに、「変わっている」のではなく「自分の人生を自分で決めている」人物なのだと気づかされます。
今回は、宮島未奈がどのような作家なのか、代表作にはどんな魅力があるのか、そして初めて読むならどの作品がおすすめなのかを紹介します。
宮島未奈とは?
宮島未奈は、1983年生まれ、静岡県出身の小説家です。
京都大学文学部を卒業。
2021年に『ありがとう西武大津店』で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、作家として注目されるようになりました。
その後、同作を含む連作短編集として『成瀬は天下を取りにいく』を発表。
2023年に刊行されると大きな話題となり、2024年には本屋大賞を受賞しました。
さらに同作は、読者から高い支持を集めるだけでなく、滋賀県大津市を舞台にした「ご当地小説」としても注目されました。
宮島未奈の作品には、地域の風景や文化が自然に取り入れられています。
しかし、単なる地域小説ではありません。
舞台が滋賀であっても、描かれているのは「自分はどう生きたいのか」という普遍的なテーマです。
『成瀬は天下を取りにいく』が大ヒット
宮島未奈を語るなら、まず『成瀬は天下を取りにいく』です。
主人公は、滋賀県大津市に住む中学生・成瀬あかり。
この成瀬が、とにかく個性的です。
周囲の目をほとんど気にしません。
「こうしたい」と思ったら、実際にやってみる。
その行動が普通の中学生とは少し違います。
だから、周囲の人たちは成瀬を「変わった人」として見ます。
しかし、成瀬自身は自分が変わっているとはあまり思っていません。
成瀬あかりという主人公の魅力
成瀬の最大の魅力は、「自分の人生を自分で面白くする力」です。
普通なら、
「こんなことをしたら恥ずかしい」
「周りからどう思われるだろう」
「失敗したらどうしよう」
と考えてしまいます。
しかし、成瀬は違います。
興味を持ったら挑戦する。
必要なら努力する。
失敗しても、また次のことを考える。
その姿を見ていると、読者のほうが勇気をもらいます。
「周りと違っていい」と思わせてくれる
成瀬の生き方は、決して「他人なんてどうでもいい」というものではありません。
むしろ、周囲の人たちとの関係を大切にしています。
ただし、「他人からどう見えるか」よりも「自分がどうしたいか」を優先します。
これは、現代を生きるうえで意外と難しいことです。
SNSなどを通して他人の生活が簡単に見える時代。
人と比較してしまう。
周囲と同じであろうとしてしまう。
そんな時代だからこそ、成瀬の生き方が魅力的に映ります。
西武大津店と成瀬
『成瀬は天下を取りにいく』では、閉店を迎える西武大津店も重要な舞台になります。
地域の人々にとって、長く親しまれてきた場所。
その閉店をきっかけに、成瀬はある行動を起こします。
一見すると、かなり突拍子もないことです。
しかし、その行動が物語を動かし、成瀬と周囲の人々との関係にも影響を与えていきます。
地元愛を押しつけない
ご当地小説というと、「この町は素晴らしい」という観光案内のようになってしまうことがあります。
しかし、宮島未奈の作品では、そうした押しつけがありません。
大津の街。
琵琶湖。
商業施設。
学校。
地元の人々。
そうしたものが、登場人物たちの日常の一部として描かれています。
だからこそ、読者はその街を身近に感じることができます。
『成瀬は信じた道をいく』で成瀬のその後へ
『成瀬は信じた道をいく』は、『成瀬は天下を取りにいく』の続編です。
成瀬は高校生になり、新しい環境でさまざまな人と出会います。
前作で成瀬の魅力にハマった読者なら、続きを楽しめる作品です。
しかし、単なる「成瀬の続き」ではありません。
新しい人物たちの視点から成瀬を見ることで、成瀬という人間がさらに立体的に見えてきます。
成瀬は「人を変える」
成瀬自身が大きく変わるというより、成瀬と関わった人間のほうが変化していきます。
最初は成瀬に戸惑う。
理解できない。
ちょっと距離を置く。
ところが、成瀬と関わっているうちに、自分も何かやってみたくなる。
これが成瀬というキャラクターの面白さです。
彼女は周囲に「こうしなさい」と説教するわけではありません。
ただ、自分がやりたいことをやっている。
その姿を見て、周囲が勝手に影響を受けるのです。
宮島未奈は「青春」を特別扱いしない
宮島未奈の青春小説には、いわゆる「キラキラした青春」とは違う魅力があります。
部活。
勉強。
友人関係。
進路。
恋愛。
将来への不安。
どれも普通です。
しかし、その普通の毎日が、本人にとってはかけがえのない時間になります。
大きな事件が起こらなくても、人生は変わっていく。
その感覚を丁寧に描いているのが宮島未奈の魅力です。
会話が面白い
宮島未奈の作品は、会話にも大きな魅力があります。
登場人物が自然に話している。
それなのに、どこかおかしい。
成瀬の独特な発言。
周囲の人間の戸惑い。
友人同士のやり取り。
そうした会話がテンポよく続いていくため、非常に読みやすい作品になっています。
「笑える」のに温かい
宮島未奈の小説にはユーモアがあります。
思わず笑ってしまう。
「なんでそうなるの?」とツッコミたくなる。
しかし、その笑いの中には、人間に対する優しさがあります。
登場人物を馬鹿にして笑うのではありません。
その人らしさを楽しむ笑いです。
だから、読後感が非常に爽やかです。
『それいけ!平安部』は歴史×青春
『それいけ!平安部』では、高校生たちが「平安時代」をテーマにした活動を繰り広げます。
タイトルからしてユニークですが、作品の魅力はその設定だけではありません。
歴史好きな人物。
そうでもない人物。
それぞれ異なる興味を持つ高校生たちが、一つの活動を通してつながっていきます。
好きなものを語れる場所
好きなものがある。
でも、周囲には理解してもらえない。
そんな経験をしたことがある人は少なくないでしょう。
歴史。
音楽。
スポーツ。
ゲーム。
映画。
アイドル。
何であっても構いません。
自分の好きなものを堂々と好きだと言えることは、実はとても大切です。
宮島未奈は、そうした「好き」という気持ちを肯定してくれます。
宮島未奈作品の魅力は「肯定する力」
宮島未奈の作品を読んでいると、読者自身まで肯定されているような感覚があります。
周囲と違っていてもいい。
少し変わっていてもいい。
好きなものがあっていい。
自分のやりたいことをやっていい。
もちろん、何でも自分勝手にすればいいという話ではありません。
周囲の人との関係を大切にしながら、自分の人生を自分で選ぶ。
その姿勢が作品全体に流れています。
「普通」に疲れた人におすすめ
現代では、「普通」という言葉に縛られることがあります。
普通の学校生活。
普通の仕事。
普通の恋愛。
普通の結婚。
普通の人生。
しかし、そもそも「普通」とは何なのでしょうか。
成瀬は、そんな「普通」にあまり興味を持ちません。
だからこそ、読者は成瀬を見ているだけで少し自由な気持ちになります。
大人が読んでも面白い
『成瀬は天下を取りにいく』は青春小説ですが、大人の読者にもおすすめできます。
むしろ、大人になってから読むことで感じるものも多いでしょう。
学生時代に諦めたこと。
周囲の目を気にしてやめてしまったこと。
本当はやってみたかったこと。
成瀬の自由な行動を見ていると、自分の過去を思い出すかもしれません。
「人生はもっと自由でいい」
宮島未奈の小説には、人生を少し楽にしてくれる力があります。
大きな成功をしなくてもいい。
誰かと比べなくてもいい。
自分が面白いと思えることをやってみる。
そんな小さな一歩を肯定してくれます。
だから、読後に前向きな気持ちになりやすいのです。
初めて読むならどの作品がおすすめ?
宮島未奈を初めて読むなら、やはり『成瀬は天下を取りにいく』がおすすめです。
宮島未奈の魅力が最も分かりやすく詰まっています。
成瀬あかりという強烈なキャラクター。
滋賀県大津市という舞台。
テンポの良い会話。
青春。
友情。
ユーモア。
そして、人間関係の温かさ。
これらを一度に楽しむことができます。
読んで気に入ったら、そのまま『成瀬は信じた道をいく』へ進むのがおすすめです。
さらに青春小説やユニークな部活動ものが好きなら『それいけ!平安部』も楽しめるでしょう。
まとめ
宮島未奈は、普通の日常の中にある「面白さ」と「人間の温かさ」を描く小説家です。
代表作には『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』『それいけ!平安部』などがあります。
その中でも、宮島未奈の名前を一気に広めたのが『成瀬は天下を取りにいく』です。
主人公の成瀬あかりは、周囲の目を気にせず、自分の興味のあることに全力で取り組みます。
普通なら、
「そんなことをして何になるの?」
と思ってしまうようなことにも挑戦する。
しかし、成瀬本人にとっては、「やってみたいからやる」だけです。
このシンプルな生き方が、読者の心をつかみます。
私たちは大人になるにつれて、
「失敗したらどうしよう」
「恥ずかしい」
「周りから変だと思われたくない」
と考えるようになります。
そして、本当にやりたいことを諦めてしまうことがあります。
そんなとき、成瀬の姿を見ると、
「もう少し好きに生きてもいいのかもしれない」
と思わせてくれます。
また、宮島未奈の作品には「人と人とのつながり」があります。
成瀬は一人で突っ走っているように見えますが、決して孤立しているわけではありません。
友人。
家族。
学校の仲間。
地域の人々。
さまざまな人との関係の中で、成瀬自身も少しずつ変化していきます。
そのため、単なる「変わった主人公の面白い話」では終わりません。
人と出会うことで人生が少し変わる。
誰かの存在によって、自分の可能性に気づく。
そんな青春小説としての魅力があります。
そして、この「誰かの生き方が別の誰かを変える」というテーマは、宮島未奈作品の大きな特徴でもあります。
『それいけ!平安部』でも、「好きなものを好きと言えること」の楽しさが描かれています。
人と違っていてもいい。
自分だけの興味を大切にしていい。
そんなメッセージが、説教臭くなく物語の中に溶け込んでいます。
宮島未奈の作品は、派手な事件が起こるわけではありません。
それでも、読んでいると楽しい。
登場人物たちの会話に笑ってしまう。
そして読み終わった後、少しだけ前向きな気持ちになる。
そこが最大の魅力です。
「普通の毎日も、自分次第でもっと面白くできる」
そんなことを教えてくれる作家が、宮島未奈です。
まだ読んだことがないなら、まずは『成瀬は天下を取りにいく』から始めてみてください。
成瀬あかりという、ちょっと変わっていて、ものすごく魅力的な主人公に出会えば、きっと宮島未奈の世界に引き込まれるはずです。

