外科的治療について

ジスキネジアや幻覚などの副作用が出たら手術を考慮

さまざまな治療薬をうまく組み合わせたり、リハビリを行ったりすることで、パーキンソン病の進み方はかつてよりもゆっくりになり、経過も改善して、パーキンソン病になっても天寿をまっとうできる人が多くなりました。薬を使いながら、発病前と同じように仕事を続けている人も珍しくありません。

しかしパーキンソン病があまりに進行してしまうと、薬で症状を改善するのが難しくなってきます。また薬が効かなくなったり、副作用としてジスキネジアが起きたり、幻覚を見るようになったりすることもあります。

パーキンソン病患者さんが見る幻覚は、ほとんどの場合、そこにないものが見える幻視というものです。たとえば本当は何もないのに、壁に虫がはっているように見える、すでに亡くなっている人が立っているのが見えるなどの症状が起きてくると、もう薬物療法は限界にきていると考え、次の手として、手術を考えなければなりません。

ただし、手術は誰でも受けられるというわけではなく、厚生労働省によって決められた基準を満たしている場合のみ、手術の適応となります。

厚生労働省が定める基準

  • 過去にL-ドーパ製剤の治療効果が認められていた人で、手術前にも効果が持続している
  • パーキンソン病の薬物療法が十分に行われているものの、症状が改善していない
  • 日常生活が困難になる不随意運動や薬物療法によるウェアリングオフの現象がある
  • 全身の状態が良好である(重い全身疾患がある人には適応されない)
  • 情動的に安定している(著しい精神症状のある人には適応されない)
  • 脳の画像検査で、脳萎縮がないことが確認されている
  • 本人が手術に同意している

手術によって薬の量が減らせ、副作用が軽減できる

パーキンソン病の外科的治療で行われるのは定位脳手術です。脳の中の運動系の神経回路の一部をこわしたり、刺激したりして症状を改善するのです。

1950〜60年代、定位脳手術はパーキンソン病の治療の中心でしたが、70年代にL-ドーパ製剤が登場すると、治療のメインは薬にとってかわられました。しかし、薬物療法をつづけていると、薬によって新たに運動障害(体が勝手に動いてしまうジスキネジア)や精神症状(幻覚)などが生じることがわかりました。

こうした症状はパーキンソン病のもともとの症状以上に、患者さんにとっては耐え難く、つらいものに感じられることもあるでしょう。手術を行って薬の量を減らすことができれば、こうした副作用も軽減できます。

さらにCTやMRIなどの画像診断技術など、さまざまな医療技術の革新によって、以前より正確で安全な手術ができるようになったことも、再び手術療法が見直されるようになってきた一因でしょう。

現在、パーキンソン病患者さんに行われる手術は破壊術と脳深部刺激療法の2種類です。

破壊術と脳深部刺激療法

破壊術というのは、その名前のとおり、組織をこわしてしまう手術で、脳の一部に電極を通して、特定部分を熱で固めたり、ガンマナイフで切除したりします。こわすのは視床淡蒼球(たんそうきゅう)、視床下核といった、大脳の深いところにある部分です。

とくに視床を破壊すると、ふるえがかなり改善できるといわれています。淡蒼球の破壊はふるえやL-ドーパ製剤を長期に使ったときに起こるジスキネジアにも効果があります。

破壊術は若年型パーキンソン病に非常に効果がある手術です。

脳深部刺激療法は、手術によって脳内の視床下核などに電極を、胸部には刺激発生装置を埋め込んで、両者をケーブルで結び、脳を刺激することで症状の原因となる信号を妨害し、破壊術と同様の効果を得る方法です。破壊術よりも危険が少なく、手術の合併症も出にくい反面、異物が体内に残るので、感染や断線の危険があります。

脳深部刺激療法はパーキンソン病の初期でほとんど行われず、だいたい60歳以上で、ホーン・ヤールの重症度分類がⅣ度以上の、病気が進行している患者さんが対象となります。

脳深部刺激療法を行うと、パーキンソン病の4大症状が軽減するだけでなく、L-ドーパ製剤が聞いている状態を持続させることができるので、薬の量を減らすことができます。薬の量が減るのでジスキネジアも少なくなるでしょう。

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