はじめに:腎臓は「沈黙の臓器」です
腎臓は、血液をろ過し、老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する、生命維持に不可欠な臓器です。また、血圧の調整や、血液を作るホルモンの分泌など、重要な役割を担っています。
しかし、腎臓は、機能が半分以下に低下しても自覚症状が現れにくいことから、「沈黙の臓器」と呼ばれます。異常に気づかず放置すると、腎臓の働きが徐々に失われ、最終的には人工透析が必要な末期腎不全に至ります。
日本では、成人の約8人に1人が慢性腎臓病(CKD)を患っているとされ、特に糖尿病と高血圧が主な原因となっています。
この記事では、腎臓病がなぜ危険なのか、その進行段階、そして透析を回避するために今すぐ始めるべき対策について詳しく解説します。
1. 慢性腎臓病(CKD)とは?メカニズムと定義
腎臓病は、腎臓の機能が低下した状態、または尿に異常が続く状態を指します。特に慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)は、以下のいずれか、または両方が3ヶ月以上続く状態を指します。
- 腎臓の障害を示す所見がある:主に蛋白尿(尿にタンパク質が漏れる)や血尿など。
- 腎機能が低下している:eGFR(推算糸球体ろ過量)が60mL/分/1.73m²未満である。
腎臓の「フィルター」の破壊
腎臓には、血液をろ過する高性能なフィルター(糸球体)が約100万個あります。
- 高血圧や高血糖が続くと、この糸球体の血管が徐々に硬くなり、破壊されます。
- フィルターが傷つくと、本来は体内に留まるべきタンパク質(アルブミン)が尿中に漏れ出し(蛋白尿)、これがさらに腎臓の組織を傷つけ、機能低下を加速させます。
2. 腎臓病の進行段階(ステージ)と重要指標
腎臓病の進行度は、主に血液検査でわかるeGFRと、尿検査でわかる**尿中タンパク(アルブミン)**の二つの指標で評価されます。
重要:eGFRが60を下回り、尿中アルブミンが増え始めたG3a/3bの段階が、最も治療を強化すべき時期です。
3. 見逃してはいけないサインと放置するリスク
腎臓病の初期・中期は無症状ですが、進行すると体液や老廃物の異常によって様々な症状が現れます。
進行期に現れる主な自覚症状
- むくみ(浮腫):腎臓が水分や塩分を排出できなくなり、特にまぶたや足にむくみが出ます。
- 尿の異常:尿の量や回数が減る、あるいは夜間に頻繁にトイレに行く(夜間頻尿)。
- 全身の倦怠感・貧血:老廃物が体内に溜まり(尿毒症)、体のだるさや食欲不振が現れます。また、腎臓が作る造血ホルモンが減少し、貧血になります。
- 泡立ちの持続(蛋白尿):尿にタンパク質が大量に混ざると、泡立ちが持続します。
放置する最大のリスク:「透析」と「心臓病」
腎臓病を放置すると、腎臓の機能が回復不能な状態にまで低下し、最終的に人工透析が必要となります。透析は、週に3回、1回4時間程度の治療を一生涯続ける必要があり、生活は大きく変わります。
さらに、腎臓病は心臓病(心筋梗塞、心不全)や脳卒中のリスクを著しく高めることがわかっています。腎臓の機能が低下すると、心臓にも大きな負担がかかるためです。
4. 透析を防ぐための最重要対策
腎臓病の進行を食い止め、透析を回避するためには、原因となっている病気を徹底的に管理し、腎臓への負担を減らすことが不可欠です。
1. 原因疾患の厳格なコントロール
- 血糖コントロール:糖尿病腎症(透析導入原因の第1位)の進行を防ぐため、HbA1cを目標値に厳格にコントロールします。
- 血圧コントロール:腎臓の血管への負担を減らすため、血圧を厳格な目標値(一般的に130/80mmHg未満)に維持します。特にACE阻害薬やARBといった降圧薬は、腎臓を保護する作用もあるため、治療の中心となります。
2. 食事療法の徹底
腎機能のステージに応じて、管理栄養士の指導のもと、以下の制限を行います。
- 塩分制限:血圧上昇を防ぎ、むくみを改善するため、厳格な減塩(1日6g未満)を徹底します。
- タンパク質制限:腎機能が低下している場合、老廃物の元となるタンパク質の摂取量を減らし、腎臓の負担を軽減します。
- カリウム・水分制限:腎機能がかなり低下した場合は、心臓への影響を避けるため、カリウムや水分の制限も必要になります。
3. 新しい治療薬の活用
近年、腎臓病の進行を遅らせる効果が確認されたSGLT2阻害薬などの新しい薬剤が、糖尿病やCKDの治療に導入されています。専門医と相談し、積極的に活用することが望まれます。
まとめ:あなたの腎臓を守るために
腎臓病は一度進行すると元に戻りませんが、早期に治療を開始し、生活習慣を改めることで、その進行を劇的に遅らせることが可能です。透析を避け、健康寿命を延ばすために、以下の行動をすぐに実行してください。
健康診断で尿や腎機能の異常を指摘されたら、「沈黙の臓器」からのSOSだと思って、すぐに専門医を受診してください。早期の行動が、あなたの未来を救います。
本記事は情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。診断や治療、具体的な食事制限については、必ず専門の医療機関(内科・腎臓内科)を受診し、医師の指示に従ってください。