世界で最も多い眼の病気:「白内障」の基礎知識、進行のサイン、そして視界を取り戻す手術のすべて

はじめに:白内障とは?

白内障(はくないしょう)は、眼の中にある水晶体(レンズ)が濁ってしまうことで、視力が低下したり、ものがかすんだりする病気です。

水晶体は、カメラのレンズに相当する役割を果たしており、外から入ってきた光を屈折させ、網膜(フィルム)にピントを合わせる重要な働きをしています。この水晶体が透明でなくなる(濁る)と、光が網膜まで届かなくなり、鮮明な視界が得られなくなります。

白内障の最大の原因は加齢であり、80歳以上になると、ほとんどの人が何らかの形で白内障を患っていると言われています。しかし、白内障は適切に治療すれば視力を回復できる病気です。

この記事では、白内障のメカニズム、見逃せない症状、そして最も確実な治療法である手術について詳しく解説します。

1. 白内障のメカニズムと主な原因

水晶体の濁りの正体

水晶体は、タンパク質と水分で構成されており、通常は透明です。しかし、加齢や紫外線の影響などによって、このタンパク質が変性し、白く濁ってしまいます。一度濁ったタンパク質は、自然に透明に戻ることはありません。

主な原因

  1. 加齢性白内障(最も多い):最も一般的なタイプで、老化によって起こります。早ければ40代から始まり、進行します。
  2. その他の原因
    • 糖尿病:糖尿病の合併症として、比較的若くても発症・進行することがあります。
    • アトピー性皮膚炎:合併して白内障が起こることがあります。
    • ステロイドなどの薬剤:特定の薬剤の長期使用が原因となることがあります。
    • 外傷性:眼を強く打つなどの外傷が原因で起こることがあります。

2. 白内障の進行による症状

白内障は、初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行するにつれて以下のような特徴的な症状が現れます。

1. 視界のかすみ・ぼやけ

  • 最も一般的な症状です。視界全体に白いモヤがかかったように感じたり、ぼやけて見えたりします。

2. 視力の低下

  • 水晶体の濁りが進行すると、光が遮られるため視力が低下します。メガネやコンタクトレンズを変えても、見え方が改善しなくなります。

3. まぶしさ(羞明)

  • 濁った水晶体が光を乱反射させるため、太陽の光や夜間の車のヘッドライトなどが異常にまぶしく感じられます。

4. 一時的な近視化(老眼の改善?)

  • 水晶体の濁り方によっては、水晶体が硬くなり、屈折力が強くなることがあります。これにより、一時的に遠くが見えにくくなる代わりに、老眼が進んでいた人でも近くの文字が見えやすくなる(手元のメガネが不要になる)現象が起こることがあります。しかし、これは白内障が進行しているサインです。

5. ものが二重・三重に見える(複視)

  • 水晶体の一部分だけが濁っている場合に、光の通り道が複数できることで、ものが二重、三重に見えることがあります。

3. 白内障の進行度と治療法

白内障の治療は、濁りが軽度で日常生活に支障がない初期段階では進行を遅らせる薬物療法、進行して視力が低下した場合は手術が選択されます。

1. 薬物療法(点眼薬)

  • 初期の段階では、水晶体の濁りの進行を遅らせることを目的とした点眼薬が使用されます。
  • ただし、点眼薬は濁りを取り除くことはできず、あくまで進行を遅らせるためのものです。

2. 手術療法(最も確実な治療法)

  • 白内障の濁りを取り、視力を回復させるための唯一の方法が手術です。
  • 手術のタイミングは、患者さんの視力や生活への支障度、職業などによって異なります。医師と相談し、日常生活に不自由を感じ始めたら検討します。

白内障手術の概要

白内障手術は、日本で年間100万件以上行われている、比較的安全性が高い手術です。

  1. 濁った水晶体の除去:超音波の機械を使って、濁った水晶体の中身を砕いて吸い出します。
  2. 眼内レンズの挿入:水晶体があった場所に、新しく透明な眼内レンズ人工のレンズ)を挿入します。このレンズが、ピントを合わせる役割を担います。

眼内レンズの選択

挿入する眼内レンズには種類があり、患者さんの希望やライフスタイルに合わせて選択されます。

  • 単焦点レンズ:一箇所(遠方か近方か)にピントを合わせるレンズ。ピントを合わせた場所以外を見るにはメガネが必要です。
  • 多焦点レンズ:複数の焦点を持つレンズで、遠方と近方など、メガネなしで見える範囲を広げることを目指します。ただし、見え方に慣れが必要な場合や、費用が保険適用外になる場合があります。

4. 手術への不安を軽減するために

白内障手術は眼にメスを入れるため不安を感じる方も多いですが、過度に恐れる必要はありません。

  1. 安全性:技術の進歩により、手術は短時間(通常10〜20分程度)で済み、入院の必要がない日帰り手術が主流となっています。
  2. 視力回復:手術により視界のかすみやぼやけが解消し、視力が回復することで、多くの方が生活の質の向上を実感しています。

手術を検討する際は、眼科専門医にしっかりと相談し、自分の生活スタイルに合った眼内レンズの選択や、手術前後の注意点について十分な説明を受けることが大切です。

まとめ:視界の異常を感じたら眼科へ

白内障は誰にでも起こる老化現象ですが、進行を放置すると生活の質が大きく低下します。見え方の異常は、自己判断せずに眼科医に相談することが、早期治療と安心につながります。

白内障の要点 説明
病態の核心 加齢などにより、眼のレンズである水晶体が濁る
主な症状 視界のかすみ、視力低下、強いまぶしさ(羞明)
進行のサイン メガネを替えても視力が回復しない、老眼が一時的に改善したように見える。
治療の原則 濁りを取り、視力を回復させるための手術(眼内レンズの挿入)
取るべき行動 40代以降でかすみや見えにくさを感じたら、眼科を受診する。

クリアな視界を取り戻すことは、認知症予防や転倒防止にもつながります。不安があれば、まず専門医に相談し、ご自身の眼の状態を把握しましょう。