はじめに:水疱瘡(水痘)とは?
水疱瘡(みずぼうそう)は、医学的には水痘(すいとう)と呼ばれ、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV: Varicella-Zoster Virus)によって引き起こされる感染症です。主に乳幼児や学童期の子どもに多く見られますが、成人でも感染することがあります。
水疱瘡の最大の特徴は、全身に現れる水ぶくれ(水疱)を伴う発疹と、それに伴う強いかゆみです。感染力が非常に強く、家庭内や学校、保育園などで集団感染しやすい病気として知られています。
現在は、ワクチンの定期接種化により患者数は大幅に減少しましたが、未接種の集団では依然として大きな問題となります。また、水疱瘡にかかった後も、このウイルスは体内に潜伏し続け、後に帯状疱疹として再発する危険性があります。
この記事では、水疱瘡の正しい知識と、大切な子どもたちやご自身をこの病気から守るための予防法について解説します。
1. 水疱瘡の感染経路と潜伏期間
水疱瘡ウイルスの感染力は非常に強く、特に飛沫(ひまつ)や空気によって容易に感染が広がります。
感染経路
- 空気感染・飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ、会話によって飛び散ったウイルスを吸い込むことによる感染。
- 接触感染:水疱の中の液(滲出液)に触れることによる感染。
潜伏期間と隔離期間
- 潜伏期間:ウイルスに感染してから発症するまでの期間は、通常2週間程度(10日〜21日)です。
- 最も感染力が強い期間:発疹が出る1〜2日前から、すべて(最後に出たものも含めて)の発疹がかさぶたになるまでです。学校や保育園、幼稚園は、この期間(すべてのかさぶたができるまで)は出席停止となります。
2. 水疱瘡の典型的な症状と経過
水疱瘡の症状は、一般的に以下の経過をたどります。
1. 前駆症状(発疹前)
発疹が出る数日前から、軽度の発熱や全身のだるさといった風邪に似た症状が現れることがあります。子どもでは発熱がない、あるいは微熱程度で済むことも多いです。
2. 発疹の出現と進行
水疱瘡の最も特徴的なサインです。
- 初期:体の中心部(胸、背中、顔など)から、虫刺されのような赤い小さな丘疹(きゅうしん)が出始めます。
- 水疱化:数時間のうちに、これらの丘疹は透明な液体を含んだ水疱(水ぶくれ)へと変化します。この水疱が次々と全身に広がっていきます。
- かさぶた:数日後、水疱は破れたり潰れたりして、黒っぽいかさぶた(痂皮)になります。
水疱瘡の特徴は、「赤い丘疹」「水疱」「かさぶた」といった様々な段階の発疹が同時に混在していることです。発疹は、口の中や頭皮にもできることがあります。
3. かゆみ
発疹には強いかゆみが伴います。特に夜間にかゆみが増すことが多く、引っ掻くと水疱が破れて細菌感染を起こしたり、治癒後に傷跡(瘢痕)が残ったりする原因となります。
3. 特に注意すべき合併症
通常、水疱瘡は軽症で済みますが、特に免疫力が低い人、成人、または乳幼児では、重篤な合併症を引き起こすことがあります。
1. 細菌による二次感染
水疱を引っ掻くことで、皮膚に傷ができ、そこにブドウ球菌などの細菌が入り込んで、とびひや蜂窩織炎(ほうかしきえん)といった二次感染を起こすことがあります。
2. 重篤な肺炎・脳炎
- 水痘肺炎:成人や免疫不全の患者が水疱瘡にかかると、肺炎を併発し、重症化することがあります。
- 水痘脳炎:非常に稀ですが、脳炎を併発し、後遺症を残したり、命に関わったりする危険性があります。
3. 成人の水疱瘡
成人が水疱瘡に感染すると、子どもよりも高熱が出やすく、重症化しやすく、肺炎のリスクも高まるため、特に注意が必要です。
4. 治療と予防:ワクチン接種の重要性
治療の基本
水疱瘡の治療は、主に抗ウイルス薬と対症療法が中心となります。
- 抗ウイルス薬:発疹が出始めてから48時間以内に内服を開始すると、水疱の数や発熱期間を減らし、重症化を防ぐ効果があります。
- かゆみ止め:かゆみによる引っ掻きを防ぐため、抗ヒスタミン薬などの内服薬や外用薬が使用されます。
- 二次感染の予防:水疱瘡の発疹には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服すると、重症化のリスクを高める可能性があるため、発熱や痛みの治療薬は医師の指示に従うことが重要です。
予防の鍵:水痘ワクチンの定期接種
水疱瘡は、ワクチン接種によって、ほぼ確実に予防できます。
- 定期接種化:日本では、2014年から水痘ワクチンが生後12ヶ月〜36ヶ月未満の子どもを対象に定期接種(無料)となり、2回の接種が推奨されています。
- 効果:ワクチンを接種することで、水疱瘡にかかるのを防ぐだけでなく、もし感染したとしても軽症で済むようになります。
- 成人の予防:未感染の成人や、妊娠を予定している女性(妊活中)は、事前に抗体検査を受け、抗体がない場合は任意接種(有料)を受けることが強く推奨されます。
まとめ:水疱瘡は「予防できる」感染症
水疱瘡は感染力が強く、時に重篤な合併症を引き起こす可能性があります。しかし、定期接種化されたワクチンを適切に接種することで、ほとんどの子どもたちはこの病気から守られています。
子どもを水疱瘡から守るため、そして将来の帯状疱疹のリスクを減らすためにも、ワクチン接種歴を改めて確認し、適切な時期に接種を完了しましょう。
本記事は情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。診断や治療、具体的なワクチン接種スケジュールについては、必ず小児科または内科の専門医を受診し、医師の指示に従ってください。