糖尿病の原因と分類
糖尿病は、インスリンというホルモンの作用不足によって、血糖値が慢性的に高くなる病気です。原因と分類は以下の通りです。
糖尿病の原因
- 1型糖尿病
- 自己免疫疾患などにより、膵臓のインスリンを分泌する細胞が破壊されることが主な原因です。
- 遺伝的な要因も関与すると考えられています。
- 2型糖尿病
- 遺伝的な要因に、過食、運動不足、肥満などの生活習慣が重なることで発症します。
- インスリンの分泌低下や、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が主な原因です。
- その他の原因による糖尿病
- 遺伝子の異常、内分泌系の病気、膵臓や肝臓の病気、薬剤などが原因となる場合があります。
- 妊娠糖尿病
- 妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常です。
- 妊娠中は、血糖値を下げるインスリンの働きを抑えるホルモンが分泌されるため、血糖値が高くなりやすい状態になります。
糖尿病の分類
糖尿病は、原因によって大きく4つの型に分類されます。
- 1型糖尿病
- 自己免疫性:自己免疫により膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に不足します。
- 特発性:原因不明で膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に不足します。
- 2型糖尿病
- インスリン分泌低下やインスリン抵抗性が主な原因で、相対的なインスリン不足を伴います。
- その他の特定の型
- 遺伝子異常、内分泌疾患、膵外分泌疾患、肝疾患、薬剤、感染症などが原因となります。
- 妊娠糖尿病
- 妊娠中に初めて発見された、糖尿病に至っていない糖代謝異常です。
糖尿病は、放置すると合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。
糖尿病の初期症状
糖尿病は、初期段階では自覚症状がほとんどないことが多い病気です。しかし、進行すると様々な症状が現れます。以下に、糖尿病の代表的な初期症状をまとめました。
主な初期症状
- 喉の渇き、多飲
- 高血糖状態になると、体は余分な糖を尿として排出しようとします。その際、水分も一緒に排出されるため、喉が渇きやすくなります。
- 多尿
- 喉の渇きから水分を多く摂取するため、尿の量や回数が増えます。特に、夜間のトイレの回数が増えることがあります。
- 体重減少
- インスリンの作用不足により、ブドウ糖がエネルギーとして利用されにくくなり、体が代わりに脂肪や筋肉を分解するため、体重が減少することがあります。
- 疲れやすい、倦怠感
- エネルギー不足により、体が疲れやすくなります。
- 空腹感
- ブドウ糖がエネルギーとして利用されないため、常に空腹感を感じることがあります。
- 目がかすむ
- 高血糖状態が続くと、目のレンズの水分量が変化し、一時的に視力が低下することがあります。
- 手足のしびれ、痛み
- 高血糖状態が神経に影響を与え、手足のしびれや痛みを感じることがあります。
- 傷が治りにくい
- 高血糖状態は免疫機能を低下させ、傷の治りを遅らせることがあります。
- 感染症にかかりやすい
- 高血糖状態は、免疫機能を低下させる為、感染症にかかりやすくなります。
注意点
- これらの症状は、糖尿病だけでなく、他の病気でも見られることがあります。
- 初期症状に気づきにくい場合もあるため、定期的な健康診断が重要です。
- 特に2型糖尿病は、初期の段階では自覚症状がまったくないことが多く、症状があらわれるとしても、非常にゆっくり、少しづつあらわれます。
これらの症状に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。早期発見・早期治療が、合併症予防につながります。
糖尿病の合併症
糖尿病は、高血糖状態が長く続くと、全身の血管や神経に様々な合併症を引き起こす可能性があります。合併症は、大きく分けて「細小血管合併症」と「大血管合併症」に分類されます。
細小血管合併症
細い血管が障害されることで起こる合併症です。
- 糖尿病網膜症
- 目の奥の網膜という部分の血管が障害され、視力低下や失明を引き起こす可能性があります。
- 糖尿病腎症
- 腎臓の糸球体という部分の血管が障害され、腎機能が低下し、最終的には透析が必要になることがあります。
- 糖尿病神経障害
- 手足のしびれや痛み、感覚の麻痺、自律神経の障害などを引き起こします。
大血管合併症
太い血管が障害されることで起こる合併症です。
- 脳卒中
- 脳の血管が詰まったり、破れたりすることで、麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。
- 心筋梗塞
- 心臓の血管が詰まることで、胸の痛みや呼吸困難などを引き起こし、命に関わることもあります。
- 足壊疽(えそ)
- 足の血管が詰まり、血流が悪くなることで、足の指先や足の裏などに潰瘍ができ、壊死してしまうことがあります。
その他の合併症
- 感染症
- 高血糖状態は免疫機能を低下させるため、感染症にかかりやすくなります。
- 歯周病
- 高血糖状態は歯周病を悪化させることがあります。
- 糖尿病性足病変
- 神経障害や血流障害により、足に潰瘍や壊疽ができやすくなります。
合併症予防の重要性
糖尿病の合併症は、早期発見・早期治療が重要です。血糖コントロールを良好に保ち、定期的な検査を受けることで、合併症のリスクを減らすことができます。
注意点
- 合併症は、自覚症状がないまま進行することがあります。
- 定期的な検査と、医師の指示に従った適切な治療が重要です。
- 生活習慣の改善(食事療法、運動療法など)も、合併症予防に役立ちます。
糖尿病の治療法
糖尿病の治療は、血糖値をコントロールし、合併症を予防することを目的としています。治療法は、糖尿病のタイプや患者さんの状態によって異なりますが、主に以下の3つが柱となります。
1. 食事療法
- バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが基本です。
- エネルギー摂取量を適切にコントロールし、肥満を解消・予防します。
- 糖質、脂質、たんぱく質のバランスを考慮し、食物繊維を積極的に摂取します。
- 塩分を控え、高血圧を予防します。
- 医師や管理栄養士の指導のもと、個々の患者さんに合わせた食事計画を立てることが重要です。
2. 運動療法
- 適度な運動は、インスリンの働きを高め、血糖値を下げる効果があります。
- 有酸素運動(ウォーキング、水泳など)とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせることが推奨されます。
- 運動の強度や時間は、医師と相談して決めます。
- 運動習慣を継続することが重要です。
3. 薬物療法
- 食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが難しい場合、薬物療法が行われます。
- 内服薬:インスリンの分泌を促したり、インスリン抵抗性を改善したりする薬が使用されます。
- インスリン注射:インスリンが不足している1型糖尿病や、内服薬で効果が得られない2型糖尿病の患者さんに用いられます。
- GLP-1受容体作動薬:インスリン分泌を促し、食欲を抑制する注射薬です。
- 薬の種類や量は、患者さんの状態に合わせて医師が判断します。
その他
- 血糖自己測定
- 自宅で血糖値を測定し、日々の血糖コントロールに役立てます。
- 合併症予防
- 定期的な検査を受け、合併症の早期発見・早期治療に努めます。
- 禁煙、節酒、ストレス管理なども重要です。
- 教育・カウンセリング
- 糖尿病に関する正しい知識を身につけ、自己管理能力を高めます。
- 精神的なサポートも受けられます。
治療の目標
糖尿病の治療目標は、血糖コントロールを良好に保ち、合併症を予防し、健康な人と変わらない生活を送ることです。
注意点
- 糖尿病の治療は、継続することが重要です。
- 自己判断で薬を中断したり、量を変更したりしないでください。
- 体調の変化があれば、すぐに医師に相談してください。
糖尿病は、適切な治療と自己管理によって、十分にコントロールできる病気です。医師や医療スタッフと協力して、根気強く治療に取り組みましょう。
糖尿病の診断基準
糖尿病の診断基準は、以下のいずれかを満たす場合に診断されます。
1. 血糖値
- 空腹時血糖値:126mg/dL以上
- 75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値:200mg/dL以上
- 随時血糖値:200mg/dL以上
2. HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
- HbA1c:6.5%以上
診断の際の注意点
- 上記のいずれかの基準を満たす場合でも、1回の検査だけでは診断確定とはなりません。原則として、別の日に行った2回の検査で基準を満たす場合に糖尿病と診断されます。
- ただし、典型的な糖尿病の症状(多飲、多尿、体重減少など)があり、かつ上記のいずれかの基準を満たす場合には、1回の検査で診断が確定することがあります。
- 血糖値のみで診断をする場合は、空腹時血糖値、75gOGTT、随時血糖値のうちいずれか2つ以上が基準を満たす必要があります。
- HbA1cは、過去1~2ヶ月間の平均的な血糖値を反映する指標であり、血糖値とは異なる情報を提供します。
境界型糖尿病(糖尿病予備軍)
- 上記の糖尿病の診断基準は満たさないものの、血糖値が正常よりも高い状態を「境界型糖尿病」と呼びます。
- 境界型糖尿病は、将来的に糖尿病を発症するリスクが高い状態です。
- 境界型糖尿病の診断基準は、以下の通りです。
- 空腹時血糖値:110mg/dL以上126mg/dL未満
- 75gOGTT2時間値:140mg/dL以上200mg/dL未満
診断の流れ
- 問診・診察: 症状や既往歴などを確認します。
- 血液検査: 空腹時血糖値、HbA1cなどを測定します。
- 75gOGTT: 必要に応じて、75gOGTTを行います。
- 診断: 検査結果をもとに、糖尿病の診断を行います。
糖尿病の診断は、専門的な知識と経験が必要です。自己判断せずに、医療機関を受診し、医師の診断を受けるようにしてください。
糖尿病に効く食べ物
糖尿病の食事療法では、血糖値の急激な上昇を抑え、血糖コントロールを改善することが重要です。以下に、糖尿病の方におすすめの食品を表にまとめました。
糖尿病に良い食品
食品群 | 食品例 | 期待される効果 | 注意点 |
野菜 | ブロッコリー、ほうれん草、キャベツ、きのこ類、海藻類 | 食物繊維豊富で、血糖値の上昇を緩やかにする。ビタミン・ミネラルも豊富。 | イモ類、根菜類は糖質が多いので、食べ過ぎに注意。 |
豆類 | 大豆、豆腐、納豆、枝豆 | 良質なタンパク質と食物繊維が豊富。血糖値の上昇を緩やかにする。 | 豆類も糖質を含むため、適量を心がける。 |
魚介類 | 青魚(サバ、イワシ)、鮭 | 良質なタンパク質とDHA・EPAが豊富。中性脂肪を下げる効果も期待できる。 | 塩分の多い加工品は避ける。 |
肉類 | 鶏むね肉、赤身肉 | 良質なタンパク質が豊富。 | 脂身の多い肉は避け、赤身や鶏むね肉を選ぶ。 |
穀類 | 玄米、全粒粉パン、オートミール | 食物繊維豊富で、血糖値の上昇を緩やかにする。 | 精製された白米、食パンは血糖値を上げやすいので、量を控える。 |
その他 | オリーブオイル、ナッツ類 | 良質な脂質が豊富。血糖値の上昇を緩やかにする。 | カロリーが高いため、食べ過ぎに注意。 |
果物 | ブルーベリー、リンゴ、イチゴ | ビタミン・ミネラル、食物繊維が豊富。血糖値の上昇を緩やかにする。 | 果糖を含むため、食べ過ぎに注意。1日200gまで。 |
食事療法のポイント
- バランスの取れた食事: 炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取しましょう。
- 食物繊維を積極的に: 食物繊維は、血糖値の上昇を緩やかにし、満腹感を持続させる効果があります。
- 低GI食品を選ぶ: GI値(グリセミック指数)が低い食品は、血糖値の上昇を緩やかにします。
- ゆっくりよく噛んで食べる: ゆっくりよく噛んで食べることで、満腹感を感じやすくなり、食べ過ぎを防ぎます。
- 規則正しい食生活: 1日3食、規則正しく食事を摂りましょう。
- 適正なエネルギー摂取量: 医師や管理栄養士と相談し、個々の患者さんに合わせたエネルギー摂取量を守りましょう。
注意点
- 上記はあくまで一般的な情報であり、個々の患者さんの病状や体質によって適切な食品や摂取量は異なります。
- 必ず医師や管理栄養士の指導のもと、食事療法を行いましょう。
- 自己判断で食事制限を行うことは、健康を害する可能性があります。