脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)の値が異常な状態を指します。以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、脂質の値が低い場合も含むことから、現在では「脂質異常症」という名称が用いられています。
脂質異常症の種類
脂質異常症は、主に以下の3つのタイプに分類されます。
- 高LDLコレステロール血症: LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が高い状態
- 高中性脂肪血症: 中性脂肪(トリグリセライド)の値が高い状態
- 低HDLコレステロール血症: HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値が低い状態
脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、大きく分けて「原発性(遺伝性)」と「続発性(二次性)」の2つに分類できます。
1. 原発性(遺伝性)
- 遺伝的な要因によって、脂質代謝に関わる遺伝子の異常が起こり、脂質異常症を発症するものです。
- 家族性高コレステロール血症や家族性高中性脂肪血症などが代表的な疾患です。
- 遺伝的な要因が強く関与するため、生活習慣を改善しても脂質の値が改善しにくい場合があります。
2. 続発性(二次性)
- 生活習慣の乱れや他の病気、薬の影響などによって起こるものです。
- 生活習慣の乱れが原因となる場合が最も多く、以下のものが挙げられます。
- 食生活の乱れ
- 高脂肪食(特に飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食品)
- 高コレステロール食
- 過剰なアルコール摂取
- 糖分の摂りすぎ
- 運動不足
- 運動不足は、エネルギー消費量の低下を招き、脂質代謝を悪化させます。
- 肥満
- 内臓脂肪の蓄積は、脂質代謝異常を引き起こしやすくします。
- 喫煙
- 喫煙は、HDLコレステロールを低下させ、LDLコレステロールを増加させます。
- 食生活の乱れ
- 他の病気や薬の影響によるものとしては、以下のものが挙げられます。
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 腎臓病
- 肝臓病
- 特定の薬(ステロイド、利尿薬、β遮断薬など)
脂質異常症のリスクを高める要因
上記以外にも、脂質異常症のリスクを高める要因として、以下のものが挙げられます。
- 加齢
- 男性
- 閉経後の女性
- ストレス
脂質異常症の症状
脂質異常症は、基本的に自覚症状がほとんどない病気です。そのため、「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれ、気づかないうちに進行し、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中などの重大な病気を発症するリスクを高めます。
しかし、まれに以下のような症状が現れることがあります。
- 黄色腫(おうしょくしゅ)
- 皮膚や腱に黄色い隆起ができることがあります。これは、コレステロールが皮膚や腱に沈着することで起こります。
- 眼瞼黄色腫(がんけんおうしょくしゅ)
- まぶたに黄色い斑点が現れることがあります。
- 手足のしびれや冷え
- 末梢動脈の動脈硬化が進行すると、手足の血流が悪くなり、しびれや冷えを感じることがあります。
- めまいや頭痛
- 頸動脈や脳血管の動脈硬化が進行すると、脳への血流が不足し、めまいや頭痛を引き起こすことがあります。
- 胸の痛みや圧迫感
- 狭心症の可能性があります。
これらの症状は、脂質異常症が進行し、動脈硬化が引き起こされた結果として現れるものであり、脂質異常症そのものの症状ではありません。
脂質異常症の合併症
脂質異常症を放置すると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。
- 動脈硬化
- 血管の壁にコレステロールなどが蓄積し、血管が狭くなったり、硬くなったりする状態です。
- 心筋梗塞
- 冠状動脈が詰まり、心臓の筋肉に血液が流れなくなる病気です。
- 脳卒中
- 脳の血管が詰まったり、破れたりして、脳の細胞が損傷を受ける病気です。
- 閉塞性動脈硬化症
- 手足の血管がつまり、冷感や痛みが発生します。
- 急性膵炎
- 中性脂肪が非常に高値になると発症することがあります。
脂質異常症の診断
脂質異常症の診断は、主に血液検査によって行われます。
1. 血液検査
血液検査では、以下の脂質の値が測定されます。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
- 動脈硬化を促進するコレステロール
- HDLコレステロール(善玉コレステロール)
- 動脈硬化を抑制するコレステロール
- 中性脂肪(トリグリセライド)
- エネルギー源となる脂質
- 総コレステロール
- 血液中の全てのコレステロールの合計
これらの値が、基準値から外れている場合に、脂質異常症と診断されます。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症の診断基準は、以下の通りです。
- 高LDLコレステロール血症
- LDLコレステロール値が140mg/dL以上
- 低HDLコレステロール血症
- HDLコレステロール値が40mg/dL未満
- 高中性脂肪血症
- 空腹時中性脂肪値が150mg/dL以上
- 随時中性脂肪値が175mg/dL以上
- 高non-HDLコレステロール血症
- non-HDLコレステロール値が170mg/dL以上
ただし、これらの基準値は、年齢や性別、他の病気の有無などによって異なる場合があります。医師は、これらの基準値と患者様の個々の状況を考慮して、総合的に診断を行います。
2. その他の検査
血液検査に加えて、以下のような検査が行われることがあります。
- 動脈硬化の検査
- 頸動脈エコー検査、血管脈波検査など
- 他の病気の検査
- 糖尿病、甲状腺機能低下症、腎臓病などの検査
これらの検査は、脂質異常症の原因や合併症を調べるために行われます。
診断のポイント
- 脂質異常症は、自覚症状がほとんどないため、定期的な健康診断が重要です。
- 血液検査を受ける際は、空腹時(食後10時間以上)に採血することが推奨されます。
- 医師は、血液検査の結果だけでなく、患者様の生活習慣や家族歴なども考慮して診断を行います。
脂質異常症は、放置すると動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの重大な病気を引き起こす可能性があります。定期的な検査と、医師の指示に従った適切な治療が重要です。
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療は、主に生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせて行われます。
1. 生活習慣の改善
- 食事療法
- 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、コレステロールの摂取を控え、食物繊維や不飽和脂肪酸を積極的に摂るようにします。
- 具体的には、肉の脂身や揚げ物、バター、スナック菓子などを控え、魚や野菜、果物、大豆製品などを中心とした食生活を心がけます。
- アルコールの摂取量も控えることが重要です。
- 運動療法
- 有酸素運動を中心に、1日30分以上、週3回以上を目安に運動を行います。
- ウォーキング、ジョギング、水泳などがおすすめです。
- 運動は、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果があります。
- 禁煙
- 喫煙は、LDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らすため、禁煙は必須です。
- 適正体重の維持
- 肥満は、脂質異常症を悪化させる要因となるため、適正体重を維持することが重要です。
2. 薬物療法
生活習慣の改善だけでは目標値を達成できない場合や、動脈硬化のリスクが高い場合には、薬物療法が行われます。
- スタチン
- LDLコレステロールを下げる効果があります。
- フィブラート
- 中性脂肪を下げる効果があります。
- エゼチミブ
- 小腸からのコレステロールの吸収を抑え、LDLコレステロールを下げる効果があります。
- PCSK9阻害薬
- LDL受容体の分解を抑制し、LDLコレステロールを低下させる効果があります。
- その他
- その他にも、胆汁酸吸着薬、ニコチン酸誘導体などがあります。
薬の種類や量は、患者様の状態やリスクに応じて医師が判断します。
治療の目標
脂質異常症の治療目標は、以下の通りです。
- LDLコレステロール値の低下
- HDLコレステロール値の維持または上昇
- 中性脂肪値の低下
これらの目標値を達成することで、動脈硬化の進行を抑え、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を予防します。
治療のポイント
- 脂質異常症は、自覚症状がないため、治療を継続することが難しい場合があります。しかし、放置すると重大な病気を引き起こす可能性があるため、医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが重要です。
- 薬物療法を行っている場合でも、生活習慣の改善は継続する必要があります。
- 定期的な血液検査で、脂質の値や薬の効果を確認します。
脂質異常症の予防
脂質異常症の予防は、生活習慣の改善が中心となります。具体的には、以下の点に注意することが重要です。
1. バランスの取れた食生活
- 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸・コレステロールの摂取を控える
- 肉の脂身、揚げ物、バター、スナック菓子などを控えめにしましょう。
- 食物繊維を積極的に摂る
- 野菜、果物、海藻、きのこなどを積極的に摂りましょう。
- 青魚を積極的に摂る
- 青魚に含まれるEPA・DHAは、中性脂肪を減らし、HDLコレステロールを増やす効果があります。
- アルコールは適量を守る
- 過剰なアルコール摂取は、中性脂肪を増やします。
- 糖分の摂りすぎに注意する
- 糖分の摂りすぎは、中性脂肪を増やします。
2. 適度な運動
- 有酸素運動を中心に、1日30分以上、週3回以上を目安に行いましょう。
- ウォーキング、ジョギング、水泳などがおすすめです。
- 運動は、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果があります。
3. 禁煙
- 喫煙は、LDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らします。
- 禁煙は必須です。
4. 適正体重の維持
- 肥満は、脂質異常症を悪化させる要因となります。
- 適正体重を維持しましょう。
5. 定期的な健康診断
- 脂質異常症は、自覚症状がないため、定期的な健康診断が重要です。
- 血液検査で、脂質の値を確認しましょう。
6. ストレスを溜め込まない
- ストレスは、ホルモンバランスを崩し、脂質代謝を悪化させることがあります。
- 適度にストレスを発散しましょう。
これらの予防法を実践することで、脂質異常症のリスクを減らすことができます。特に食生活と運動習慣の改善は重要なので、日頃から意識して生活するようにしましょう。
脂質異常症の合併症
脂質異常症は、自覚症状がほとんどないため、放置されやすい病気ですが、様々な合併症を引き起こす可能性があります。主な合併症としては、以下のものが挙げられます。
1. 動脈硬化
- 脂質異常症が進行すると、血液中のコレステロールや中性脂肪が血管の内壁に蓄積し、血管が狭くなったり、硬くなったりします。これが動脈硬化です。
- 動脈硬化は、全身の血管で起こり、様々な病気の原因となります。
2. 心疾患
- 冠動脈(心臓に血液を送る血管)の動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
- 狭心症: 冠動脈が狭くなり、心臓に十分な血液が送られなくなる病気です。胸の痛みや圧迫感が主な症状です。
- 心筋梗塞: 冠動脈が詰まり、心臓の筋肉に血液が流れなくなる病気です。激しい胸の痛みや呼吸困難などが起こり、命に関わることもあります。
3. 脳血管疾患
- 脳の血管の動脈硬化が進行すると、脳梗塞や脳出血を引き起こす可能性があります。
- 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、脳の細胞が損傷を受ける病気です。手足の麻痺や言語障害などが起こります。
- 脳出血: 脳の血管が破れ、脳内に出血する病気です。意識障害や麻痺などが起こり、命に関わることもあります。
4. 末梢動脈疾患
- 手足の血管の動脈硬化が進行すると、閉塞性動脈硬化症を引き起こす可能性があります。
- 閉塞性動脈硬化症: 手足の血管が詰まり、冷感や痛み、歩行障害などが起こります。重症化すると、足の切断が必要になることもあります。
5. その他
- 脂質異常症は、腎臓病や糖尿病などの合併症のリスクを高めることも知られています。
- また、高中性脂肪血症が重症化すると、急性膵炎を引き起こすことがあります。
合併症予防の重要性
脂質異常症の合併症は、命に関わるものや、生活の質を著しく低下させるものが多いため、予防が非常に重要です。
- 定期的な健康診断で、脂質の値を確認しましょう。
- 医師の指示に従い、適切な治療を受けましょう。
- 生活習慣の改善(食事療法、運動療法、禁煙など)に取り組みましょう。
これらの予防策を講じることで、合併症のリスクを減らし、健康な生活を送ることができます。
脂質異常症に良い食べ物
脂質異常症の改善に役立つ食品を表にまとめました。これらの食品をバランスよく摂取し、規則正しい食生活を心がけることが大切です。
食品群 | 食品例 | 期待される効果 | 摂取のポイント |
魚類 | サバ、イワシ、サンマ、アジ | EPA・DHAによる中性脂肪低下、HDLコレステロール増加 | 週に2回以上、積極的に摂取 |
大豆製品 | 豆腐、納豆、豆乳 | コレステロール低下作用、食物繊維豊富 | 毎日適量を摂取 |
野菜類 | ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草、きのこ類 | 食物繊維豊富、抗酸化作用 | 1日350g以上を目安に摂取 |
海藻類 | わかめ、昆布、もずく | 食物繊維豊富、ミネラル豊富 | 積極的に食事に取り入れる |
全粒穀物 | 玄米、全粒粉パン、オートミール | 食物繊維豊富、血糖値の急上昇を抑える | 主食を全粒穀物に置き換える |
植物性油 | オリーブオイル、アマニ油、えごま油 | 不飽和脂肪酸豊富、悪玉コレステロール低下 | 炒め物やドレッシングに活用 |
果物類 | リンゴ、キウイ、柑橘類 | 食物繊維、ビタミン豊富 | 1日200g程度を目安に摂取 |
摂取を控えるべき食品
- 飽和脂肪酸の多い食品:肉の脂身、バター、ラード、生クリームなど
- トランス脂肪酸の多い食品:マーガリン、ショートニング、揚げ物、スナック菓子など
- コレステロールの多い食品:卵黄、レバー、魚卵など
- 糖質の多い食品:菓子パン、ケーキ、清涼飲料水など
- アルコールの過剰摂取
食事療法のポイント
- バランスの取れた食事:上記のような良い食品を積極的に摂取し、控えるべき食品は控えめに
- 規則正しい食生活:1日3食、決まった時間に食事を摂る
- 腹八分目:食べ過ぎに注意し、腹八分目を心がける
- 調理法の工夫:揚げ物よりも、蒸し料理や煮物など、油の使用量を抑えた調理法を選ぶ
- 食物繊維を積極的に:野菜、海藻、きのこなどを積極的に摂取
その他
- 上記はあくまで一般的な情報であり、個々の状態に合わせて医師や栄養士と相談することが重要です。
- 食事療法だけでなく、適度な運動や禁煙も脂質異常症の改善に役立ちます。
これらの情報を参考に、健康的な食生活を送り、脂質異常症の改善を目指しましょう。