認知症とは

認知症を正しく理解するために

急速な高齢社会の到来で、認知症に進展する患者さんが急増しています。

実際に、認知症患者さんの介護に苦労している家族の方も数多くいると思います。

認知症患者さんの介護は、病気を正しく理解することから始まります。

病気を正しく理解し、上手な介護、適切な対応を心がけることが最も大切です。

認知症は、2人の病者を生み出します。

ひとりは認知症患者さんであり、もうひとりは介護する家族です。

介護する家族も悩み、悲しみ、苦しい思いを抱いているのです。

認知症の介護は、患者さんの家族ばかりでなく、かかりつけ医、介護施設、介護スタッフ、看護師、行政、地域社会などがそれぞれの役割を果たさないと進みません。

しかし、その中でも最も大切な役割を果たしているのは介護する家族なのです。

患者さんを日々介護する家族が病気を正しく理解できていないと、上手な介護は成り立ちません。

物忘れと認知症は違う

私たちは、学校や仕事、社会、家庭など多くの環境からいろいろな知識や技術を習得し日常生活を営んでいます。

認知症と判断するための第一の条件は、この知識や技術が何らかの原因によって低下あるいは損なわれてくることです。

どんなに物忘れがひどくても、それによって日常生活に支障がみられない場合には認知症と判断することはできないのです。

認知症と判断するための第二の条件は、低下してきた知識や技術によって社会生活や家庭生活に重大な支障をきたすことです。

たとえば、現役の銀行員がお金の計算をできなくなった、主婦が今までできていた料理をつくれなくなってきた、洗濯機の使い方がわからないときなどに認知症の可能性を考えます。

意識がはっきりしていることも認知症の判断には必要です。

意識が混濁していると、認知機能と呼ばれる脳の機能を評価することができないからです。

以前は、認知症は治らない、不可逆的で進行するものと考えられていましたが、現在の考え方では、早期の診断、適切な治療によって治すことが可能な認知症もあり得るとされ、経過も進行、不変、改善のいずれもみられるとされています。

「痴呆」から「認知症」への名称変更

認知症は、以前は「痴呆」と呼ばれていました。

しかし、痴呆は侮蔑的な表現であり実態を十分に表していないとの指摘から、2004年12月24日、厚生労働省から「認知症」への名称変更の通知がなされ、現在は、一部の医学的な表現を除いて「認知症」という呼称が一般化されています。

年齢による心配いらない物忘れと病気の部分症状としての物忘れ

しまい忘れや置き忘れなどの物忘れの原因として、病気の部分症状としての物忘れ(病的物忘れ)と年齢に伴う心配いらない物忘れ(良性の物忘れ)の2つが考えれます。

病的な物忘れは、アルツハイマー病あるいは脳血管性認知症など、認知症を生じる疾患の部分症状としてみられるものです。年齢に伴う心配いらない物忘れは、加齢あるいは老化に従ってみられてくる生理的な状態です。

つまり、誰にでもみられるものなのです。

アルツハイマー病と年齢に伴う心配いらない物忘れの最も大きな違いは、物忘れが進行・悪化してくか否かです。

アルツハイマー病でみられる物忘れは、経過につれて状態や頻度が必ず進行・悪化していきます。3年前より1年前、1年前より現在のほうが明らかに進行していきます。

一方、年齢に伴う心配いらない物忘れでは、何年経っても人や物の名前が出てこない、うっかりした物忘れのままで症状は悪化していきません。

アルツハイマー病は昔の記憶にも障害を及ぼす

アルツハイマー病では、経験したこと全体を忘れてしまうことが多くみられます。

たとえば、1ヶ月前に入院したこと、1週間前に家族旅行に出かけたことなどを忘れてしまいます。初期には直前の記憶があやふやになり、進行すると最近の記憶に障害がみられ、さらに進むと昔の記憶も障害を受けてきます。

昔のことはよく覚えているから心配いらないと考えている方がいますが、それは誤りです。

アルツハイマー病では、症状が進行すると自分の生まれた場所や卒業した学校も忘れてしまうのです。

年齢に伴う心配いらない物忘れでは、経験したことの一部、あるいは細部を思い出せないことが多いのです。

1ヶ月前に入院したことは覚えているが何階の病棟に入院したのか思い出せない、旅行に行ったことは覚えているが旅館の名前を思い出せないなどです。

ヒントを与えるとしばしば思い出せることも、特徴のひとつです。